「何やってんの?」
「よぉ、」
昼時の忙しい時間を乗り切って、仕込みに取り掛かるため一旦暖簾を仕舞おうとして顔を出した店の入り口、すぐ隣に銀時が背中を丸めて座り込んでいた。
以前、甘いものを出さない中華料理店・亭に散々文句を言うものだからキレたが「客じゃないなら入るな」と怒鳴り、銀時も「甘い匂いのしない店になんか頼まれたって入ってやるもんか」と言い出し、結局どちらも折れないまま今に至っている。
意地を張らずに寒い外なんかにいないで中に入ればいいのにと思うのだが、今更素直に銀時に言えるわけもなく。何となく意地を張り合ったまま、店の入り口横が銀時の定位置になりつつある。
それでも年の暮れの迫ったこの季節、冷え込みは増すばかりで、さすがの銀時も寒いのか、すっぽりとマフラーに顔を埋めて、両手もポケットに突っ込んでいる。
「なぁ、。今日、何の日か知ってるか?」
「もちろん。信じてもないサンタクロースに現金をお願いしてみるものの叶えられるはずもなく、今年もテンパの銀時が一人虚しく過ごす毎年恒例のクリスマスでしょ?」
「そうだよ、よく分かってるじゃねーか。サンタは金持ってきやしねーし・・・って、おい!!
ダメでしょ! サンタにそんなのお願いしちゃ!! それに、俺はサンタ信じてるし! ってか、テンパとか、一人虚しくとか、関係ねーし! 余計なお世話だし!!」
「あら? そうだった?」
「それに、一人寂しくはも一緒だろうがよっ!!」
銀時の言葉に、とぼけていたの片頬がピクリと引き攣った。
「わ、た、し、はっ! 銀時と違って忙しいの! よろず屋と違って、有難いことに亭は繁盛してるし!!」
「中華料理店の癖に、クリスマスが忙しいのかよ?!」
「そ、う、よ!! かきいれ時なんだから!!」
「そんなにクリスマス働きたいなら、ケーキ屋にしちまえよ。そうしたら、俺もお客になってやるよ」
「結構です!!」
きっぱりと断ったに、銀時は肩を落として立ち上がった。
「そっか。残念だ」
「ご愁傷様!」
「・・・今年は新八もよろず屋にいるし、神楽はもちろんいるだろうし。珍しく騒がしいクリスマスになりそうだったんだけどな」
「そう・・・良かったじゃない」
肩を竦めて返せば、銀時が吐いた溜息が白く消えていった。
「寂しい女も誘ってやろうかと思ったんだけどなぁ・・・仕事じゃ仕方ないか」
「・・・そうね。仕事だもの」
諦めたようにも、肩を竦めて苦笑してみせた。少し心は惹かれるが、亭の味を求めて来てくれるであろうお客さんに無駄足を踏ませるわけにはいかない。
「じゃ、そいうことで・・・」
立ち去りかけた銀時が足を止めて振り返った。ポケットに入れたままだった手を、片手だけ引っ張り出した。
「もうぬるくなっちまったから、やるよ」
放られたものを受け止めて、は疑うように片眉を吊り上げた。言葉よりも雄弁なその視線に、銀時が肩を竦めた。
「ただでやるって!」
「嘘。なんかあるんじゃ・・・?」
「ねぇよ!! ほら、もう一つあるんだって!」
ポケットに入れたままだったもう片手を出せば、の手の中にあるのと同じ缶飲料が現れた。
「信じられない・・・銀時からプレゼントだなんて・・・・・・」
大分温かさを失った缶を握り締めて、は目を丸くした。
温かさを失った分は、それだけの時間を銀時が店の外で過ごしていたことを表すようで。けれど、しっかりと握り締めれば微かな温かさでも、この寒空の下では確かな温もりで。
「ふん! 銀さんだって、そういう気分の時だってあんだよ! まぁ、360日くらいは、そんな気分にはならねぇけど」
「・・・生ぬるいココアって、味が微妙・・・・・・」
「貰ったもんにケチつけんな!!!」
くるりと踵を返した銀時が、背中を丸めたまま遠ざかっていく。
「ったく・・・・・・店終って暇だったら来てもいいからな! ただし、甘いもの持ってくるならだけど!!」
「リョーカイ」
銀時の背中にそう返事して、は店の中へ戻って時計を見つめて、にやりと笑みを浮かべた。
「ケーキの一つや二つ、この私にかかればどうってことないってこと、しっかり銀時に分からせてやるんだから」
手袋で包む缶ココア
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