「お前・・・何だ、その鼻?」

  「あ、モック。クランクも」
  「おい。鼻どうしたんだって訊いてるんだけど?」
  モックに、ググッと鼻の頭を押されて、は思わず背中を反らせた。
  「鼻ぁ? なんか変?」
  「真っ赤。いつもに増して、変な顔」
  「一言余計!!」

  ムッツリと口を尖らせて抗議して、は押された鼻を触った。

  「多分、風を切ったから」
  「は?」
  「ジギーの速達便手伝ったから、だと思う」
  「・・・何で?」
  不機嫌そうに眉を寄せたモックに、も口を尖らせた。
  「館長指示! 文句ある?!」
  「・・・・・・別に」
  ぶっきらぼうに呟いて、ふんっとモックがそっぽを向いた。
  「・・・関係ない」
  「あっそう」
  も、ぷいっとモックから顔を背けた。
  二人の間で、モックの相棒―ディンゴ―クランクが空気に耐えられなくなったかのように、定位置のバックの中へと頭を沈めていった。

  紅い鼻が気になって、はマフラーを引き上げた。
  「・・・・・・ジギーはゴーグル貸してくれたりしなかったのかよ?」
  「そうしたら、ジギーが困るじゃん。それに、鉄の馬を走らせてるのはジギーだし」
  「どうせ、お前はジギーの足引っ張っただけだろうしな」
  「うっさい!! 私だって、やる時はやるんだから!!!」

  「はっ!! やる時ってのは、いつなんだ? 生憎、俺は今まで見せてもらってないけどな!!」
  「はぁ?! その目は節穴?!! モックだって、いつも私の足引っ張ってるじゃん!!」
  「俺がいつお前の足引っ張った?! 引っ張ってるのは、の方だろ!!!
    いつも、俺がお前に迷惑かけられてるんだ!」
  「はぁん?! 勝手なこと言わないで!! 迷惑かけられてるのは、こっちよ!!」
  「寝言は寝て言え! お前は遅延の常習犯だろう!!
   と組まされて、ジギーもいい迷惑だったに決まってる!!」
  「そんなのっ!!!」
  キッと睨んだに、モックが不意に視線を外した。

  「・・・・・・止めだ、止め」
  未だ睨んだままのから、モックは視線を逸らし続けている。

  「速達便、上手くいったのか?」
  「・・・・・・うん。間に合った・・・」
  「そうか・・・・・・よかったな」
  「うん・・・・・・」

  頷いて、もモックを睨みつけていた視線を地面に落とした。
  「・・・薬、ちゃんと間に合ったから・・・・・・ジギーのおかげで       ?!」
  ふわりと巻かれたマフラーに顔を上げれば、すでに数歩前を歩いていく背中があった。

  「よかったな! こんな夜に死なれちゃ、堪らないからな!!」
  幾分寒そうに首を竦めながら、モックが背中越しにに声をかけた。

  「寒い!! さっさと帰るぞ!!!」
  「・・・うん、ありがと・・・」
  「何か言ったか? ほら、さっさとしろ!! こんな夜に働いてるなんて、馬鹿みたいだからな!!」
  「ちょ、待ってって!!」
  慌ててもモックの後を追った。

  それから、2本巻かれたマフラーのうちの1本の端を差し出した。
  「・・・端っこなら、使ってもいいけど?」
  「・・・・・・もともと俺のだけどな・・・まぁいいか」
  呟いてモックがマフラーの端を首に巻いた。

  聖なる夜に少しだけ、真っ赤になった鼻と隣を歩くモックに感謝したい気持ちになった。











マフラーから覗く紅い鼻











Photo by clef

ブラウザバックでお願いします。