「サンタクロース?」

  「そう。それだ」
  「まさか」
  の寄せられた眉と引き結ばれた口元が、疑いを伝えている。

  「信じられないか?」
  「だって、信じてないから・・・サンタなんて」
  一旦言葉を切って、は窺うように俺を見つめたまま首を傾げた。

  「維新(ウァイサン)は信じてる?」
  肩を竦めて俺は皮肉気に唇を持ち上げた。

  「冗談! 俺が敬虔なクリスチャンに見えるか?」
  「ロアナプラにクリスチャンなんていた?」
  「教会でも見たことないな」
  「なら、ロアナプラにサンタはいない」
  「だったら、誰の仕業だ?」
  は憮然とした表情のままだ。物言いたげな視線に、俺は大袈裟に肩を竦めた。

  「言っておくが、俺じゃないぞ?」
  「・・・・・・」
  「俺だったら直接渡す。お前の部屋に置き去りにしたりしないさ」

  「・・・・・・・・・じゃぁ、これは何? 誰の仕業?」
  怪訝そうな顔をしたまま、が破られた包み紙と開けられた箱の中身を指し示した。
  「サンタが私にエシュロンMPTを?」
  「キャンディより似合うだろ?」
  「サンタが武器を贈る?」
  「ロアナプラのサンタなら」
  飄々と腕を広げて笑えば、溜息を吐いてがナイフを手に取った。

  「・・・ロアナプラのサンタ、ねぇ・・・」
  「こんなクソみたいな街でも、偶にはいいんじゃないか?」
  「ん・・・分かった。貰っとく」

  すっと刃に指を滑らせて、ようやくの顔が新しい玩具に満足するように笑みを浮かべた。
  その嬉し気な顔に、彪(ビウ)の仕事を褒めてやってもいいなとそう思いながら、張(チャン)も高級煙草(ジタン)を咥えた口元で小さく笑った。











  「おいおい・・・」
  と交わした会話もまだ記憶に新しく、張維新(チャン・ウァイサン)は思わず苦笑を浮かべた。

  熱河電影公司(イツホウディンインゴンシ)の最上階の社長室に戻って来た張を迎えたのは、机の上に置かれた小さな箱。

  確かに、の元から真っ直ぐ戻らなかった。三合会(トライアド)の仕事をいくつか片付けて、それからここへ戻ってきたわけだが       張は背後に声をかけた。
  「俺の留守の間、誰かここに入ったか?」
  「いいえ。誰も」
  留守を預けた腹心、彪如苑(ビウ・ユユン)の返答に、張は皮肉気に笑った。

  誰にも気付かれずに三合会は金義潘(カンイファン)の白紙扇(パクツーシン)の部屋を出入り出来る人間       いくら警備を強化したって無駄だ。
  今はただ、その人間の目的が自分を殺すことではなかったことを喜ばなければならないだろう。

  「大哥(アニキ)、何か?」
  「いや、何でもないさ」

  手を振って彪を下がらせ、張は飾り気のないその小さな箱を開けた。中には、鈍く輝く銀色のライターが一つ。
  「デュポンとはな・・・!」
  驚きにサングラスの奥でニヤリと笑って、張は机の上に目を落とした。
  ガラス製の机に走り書きされた文字が躍っている。

  『Dearサンタ
     言い忘れた。
     ナイフ、ありがとう。嬉しかった。
     だからお礼。
                    Fromサンタ』

  サングラスの奥の目を細めて、張はその文字をなぞった。
  「ロアナプラに、サンタが二人もいたとは、な・・・」
  呟いて、張は早速ライターを手に取った。
  新しい高級煙草を咥えて、キンッと音を鳴らして火を点した。

  「最高の夜だな・・・・・・」
  机に軽く腰掛け、眼下の夜景を見下ろしながら、張は紫煙を吐き出して満足そうに微笑んだのだった。











曇りガラスに指で書いた「」











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