敗因はただ一つ ホームなら安全だと、危険なのはアクマだけだと思ってた。
(こんなのは想像してなかったなぁ・・・・・・)
「っ!!!」
急速に落ちていく意識の中で、最後に届いたのは、大好きな彼の声だった。
アホだ。
この人たちはどうしようもないアホだ それが、リナリーが落ちてきた真相を知ったときのアレンの正直な感想だった。
背負った女の子は確か、ムカツク馬鹿神田の頭をファイルの角で殴った子だ( ← 正確には間違ってますよアレンさん)。
彼女もエクソシストだったんだ、とアレンはリナリーの顔を眺めた。室長助手と名乗っていたから コムイ室長の美人秘書だと思っていたから 驚いた。
こんな可愛いのにエクソシストだなんて・・・・・・いやいやいや、エクソシストって、あの師匠と同じ職業じゃないか アレンの背筋を悪寒が駆け上がっていった。師匠に金槌で殴られて気絶させられたトラウマは、まだ払拭できていないようだ( ← 重症のようですアレンさん)。
「 悪いな、アレン・・・それから、おかえり」
リーバーの言葉に、アレンは顔を上げた。師匠と出会う前、こんなふうに迎えてくれた人がいた あの頃は、幸せか不幸せかなんて考えもせずに生きていられた。マナの傍にいるだけで、当たり前のように感じていたのに .
「アレン?」
「え、あ・・・はい?」
「傷、痛むのか?悪いな、任務明けで疲れてんのに巻き込んで。リナリー、背負うの代わろうか?」
「いえ、大丈夫です・・・え、っと・・・・・・た、ただいま」
「・・・・・・おかえり。初任務、ご苦労様」
ぎこちなく返したアレンの挨拶を、リーバーは微笑んで受け止めた。
リーバーさんって、いい人だなぁ アレンはそう思った。
「リナリ〜、まだスリムか〜いっ!!?」
力が抜ける声に顔を覗かせれば、教団の吹抜けをゆっくりと移動してくる逆三角形の巨大な建造物 近づいてくるうちに、その上部の広い部分に科学班の面々がいるのが見えた。口々に何か叫んでいる。
「班長〜、アレ〜ン、トマも無事かぁ〜??!」
「リナリ〜ィ!!」
「みんな、早くこっちへ!!」
「うわっ、来たっ!!!!!」
大混乱なそこへ大きな影が突っ込んだ。コムリンだ。
相変わらず見事な暴走っぷりで教団施設を破壊しながら、アレンたちに迫ってくる。
「あぁ〜なんてことだっ!!ボクのリナリーがっ!!」
なんとかコムリンの攻撃を避けながら逃げるアレンたちに、コムイの悲鳴が聞こえた。
「リーバーくん!!リナリーに傷がついたり、万が一にもマッチョになっちゃったりしたら・・・・・・あぁ、ダメ!!想像しただけで、涙でかすんで前が見えないよっ!!!」
馬鹿らしいことを叫びながら、コムイはすでに泣いている。
「・・・・・・こうなったら、仕方ないよね?だって、リナリーがマッチョになるなんて、耐えられないんだもん!!リナリーの代わりに犠牲になってっ、アレンくん!!」
「えぇ!!!?僕ですかっ!!」
「コムリン!!アレンくんが任務後で修理が必要だってっ!!!!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
「優先順位設定変更。アレン・ウォーカー重症ニヨリ最優先ニ処置!!」
コムイの言葉に、コムリンのレンズが怪しく光る。
「エサに喰いついてる今のうちに、リーバーくん、リナリーをこっちへ!!!」
「あんた、どこまで鬼畜なんだっ!!」
リナリーをリーバーに託して、一人逃げ回るアレンをエサ呼ばわりするコムイに、リーバーが声を荒げる。
善戦空しく、コムリンから伸びた腕に足を取られて、アレンが手術室と書かれた入り口へ引っ張り込まれていく。
「アレン・ウォーカー確保!!次ハ、リナ 」
「ダメ〜!!リナリーよりも先に ほら、今日帰ってきたばかりの!!左腕、故障してるしっ!」
「あんた、何言ってんだっ!!!」
リーバーの視線の先を見上げたアレンは、コムイの腕の中に黒っぽい人物 という名前らしい を見つけた。リナリー同様意識のない様子の襟首を掴んで、コムイがコムリンの方へ彼女を突き出した。
「大丈夫っ!!なら、笑って許してくれるってv」
「駄目です!!困りますっ!!」
「何でリーバーくんが困るわけ?なら、マッチョなリナリーを見るくらいなら喜んで 」
「ダメ〜!!!」
可愛らしく小首をかしげて見せたコムイに、背後からジョニーがしがみついた。
ジョニーに続けと、タップやロブがコムイを止めようと組み付く。逃れようと暴れるコムイを、必死になって科学班の面々が押さえ込む。
「コムイ室長、ダメですっ!!はリーバー班長の 」
「危ないっ!!」
誰の叫び声だったか 暴れるコムイの手から、の体が滑り落ちた。半分以上柵から出掛かっていた体は、そのまま宙へと放り出され、伸ばされた幾人もの手も届かず、ニュートンの発見した法則に従って、落下した。
「っっっ!!!!!!!」
リーバーの悲鳴が空気を切り裂いた 瞬間、の瞼がゆっくりと持ち上がったのを見た、とアレンは思った。ら、次の瞬間、アレンを手術室の扉に挟み込んだまま、コムリンがに向かって突っ込んだ。
「確保!!!」
コムリンは、そのままの勢いで壁に激突した。
勢いよく巻き上がった土埃に咳き込みながら、アレンは手術室の扉を押さえた不自由な体勢のまま、そっとコムリンをうかがった。という人がペシャンコになっているのでは・・・・・・?そんな恐ろしい想像がアレンの頭を過ぎる。
「・・・・・・ふぁぁ・・・ねむぅ・・・・・・」
土埃の中から、最初に聞こえたのは、場違いな寝ぼけた声だった。続いて、土埃の中に人影が浮かぶ。
「ってか、頭重い・・・眠い・・・・・・」
次第に薄まっていく土埃のなかから、黒い団服が見え、金と茶色の幾分変わった色合いの髪が現れた。
「・・・・・・しかも、何、これ?」
眉間を押さえていた手を離した彼女が、ゆっくりと瞳を開く。綺麗な碧眼の瞳が、至近距離でアレンとぶつかった。
「・・・・・・・・・誰?」
「えっと・・・・・・・・・」
「リーバー、じゃない・・・・・・・・・ふわぁぁ」
眠たそうに欠伸をもう一つ。驚いたことに、その人物は壁に背中を押し当て、右腕と左足だけでコムリンを止めていた。
「・・・・・・エクソシスト?」
「ア、アレン・ウォーカー、です・・・・・・」
名乗ったアレンに、彼女は首を傾ける。
「アレン、アレン、アレン・・・・・・知ってる名前?」
「えっと・・・・・・初めまして、デス」
困ったように彼女に問われ、アレンは答えた 寝ぼけてるのか、それとも天然か・・・もしくは打ち所が悪かったとか?
「あ、なーんだ・・・・・・よかった」
安心したように呟いて彼女がゆるく微笑んだ。
陽だまりの蒲公英が綻んだような柔らかな笑顔にアレンは見とれてしまった。
「、無事かっ!!?」
「あ、リーバー見っけ・・・って、これ邪魔」
リーバーの声に反応した彼女が、コムリンを突き飛ばした。笑顔に見とれていたアレンは、当然反応出来ずにコムリンと一緒に飛ばされた。
「・・・良かった、無事だったか・・・・・・・・・って、アレン!!?」
綺麗に着地したに駆け寄ろうとして、リーバーはコムリンの下敷きになっているアレンに気付いて慌てて足を止めた。
「・・・吹っ飛ばす、なんて・・・・・・・・・型破りデス・・・」
「しっかりしろ、アレン!!」
「リーバー、どうなってんの?」
アレンを助け出そうとするリーバーの隣に、膝をついたが眠そうに尋ねる。
「コムイ室長の発明したコムリンが、暴走してるんだ」
「ふ〜ん・・・・・・この人は、助けた方がいいの?」
リーバーが引っ張るアレンを指差して、が興味なさそうに尋ねる 名乗ったのにコノ人呼ばわりっ!?
「ほら、話しただろ?の、弟弟子で、新しい、エクソシストの、こと、それが、この、アレンっ!!」
「あ〜、そう言えば・・・・・・じゃぁ、助けないとマズイ、わけだ」
必死でアレンを引っ張りながらのリーバーの説明に、は納得したように呟いた ?何か今、重要なこと言いませんでしたか?弟弟子ってなんですかっ!?もしかして、この美人な彼女は、クロス元帥の関係者ですかっっ!!??
バキッ!!
混乱するアレンの真横で、暴力的な音が響いた。アレンが恐る恐る視線をやれば、コムリンの鋼のボディに、の右腕が突き刺さっている。
「リーバー、下がってて」
「分かった・・・・・・ついでに、コムリンも止めてもらえると、助かる」
「ん、了〜解」
軽く返事をしたの言葉に従って、リーバーが安全そうな場所まで下がる。それを確認してが面倒そうに呟く。
「・・・さて、と。どっから手をつけようかなぁ・・・」
バキキィッ!!!
が突っ込んでいた右腕を力ずくで引き抜いたおかげで、手術室の扉が外れ、アレンが転がり出てきた。
「あ、ありがとうごさいます・・・」
「お礼なら、リーバーに言って」
せっかくのアレンの礼をさらりと流す。アレンは軽く打ちのめされたような気がして って、何故に僕がこんな気持ちにならなきゃならんのですかっ!!?おかしいじゃないですかっ!? と顔を上げ、目がとまったの左腕。
コムリンを力ずくで止めたときに緩んでしまったのか、巻かれていた包帯がするすると解けて .
「・・・・・・・・・見えた?」
「いえ、何もっ!!忘れますっ!!!」
包帯を巻きなおして傷を隠したが、笑ってアレンへにじり寄る。
同じ笑顔でも、今度のは背筋が凍るようなものを含ませるにアレンはデジャブを感じた 同じだっ!!!!絶対、師匠の関係者ですっ!!!!!
「・・・見たのね・・・・・・特別に選ばせてあげる・・・今すぐ死ぬか、後で死ぬか、それとも・・・・・・」
「どれも、遠慮しますっ!!」
「・・・・・・・とりあえず、誰かに喋ったら・・・分かるよね?」
「は、はいっ!!!」
何とか返事をしたアレンに、もう興味はないとでも言うように、は再びコムリンに向き合った。
「さてと。・・・・・・じゃぁ、コムリンにも選ばせてあげる。スクラップか、鉄屑か、ゴミか、どれがいい?」
どれも一緒じゃないですかっ!!!?アレンの内心の声と、同様の反応をしたコムイが叫んだ。
「ダメ〜〜〜そんなことしたら、コムリンが壊れちゃうじゃないか〜〜〜!!!の馬鹿ぁ〜〜〜〜〜」
「壊すんです」
その言葉とともに、がコムリンを蹴り飛ばす。追撃を加えるため、も床を蹴る。
そのまま肘を叩き込んで、残っていたもう一枚の手術室の扉も壊したは、コムリンの頭を掴んで壁めがけて投げ飛ばした。盛大な土煙が上がる。
「アレン、大丈夫かっ!?」
それらを呆然と眺めていたアレンは、いつの間にか傍に来ていたリーバーの声で、我に返った。
「な、何なんですか、あの人っ?!!!」
「エクソシストのだ。で、クロス元帥の弟子・・・だから、アレンの兄弟子になるな」
「し、師匠の・・・・・・どうりで・・・」
「?」
「いえ、コッチノ話デス・・・・・・彼女も寄生型なんですか?」
装備型のような武器は一切持たずに素手でコムリンを殴り飛ばしているを目で追いながらアレンがリーバーに尋ねる。
「いやぁ、それがなぁ・・・・・・」
「?・・・!まさか、ただの力持ちとかっ!!?」
困ったように頭を掻くリーバーをみて、アレンが思いつきを口にするが、リーバーは苦笑を浮かべて首を横に振った。
「の持ってるロザリオが装備型のイノセンス・・・らしく、の体を守ってて、それを応用して素手で戦える・・・ようなんだが、まだ謎が多くてな。科学班でも手の出しようがないんだ。情けない話だが」
そう言って、困ったようにリーバーが笑う。
再びアレンはを目で追った。
は、ちょうどコムリンを壁にめり込ませたところだった。それでもまだ動こうとするコムリンに対しては攻撃を加え、逃げ場のない壁際へコムリンを追い詰めていく。
プスッ。
「にゃ?」
コムリンにとどめを誘うと拳を振り上げたが突然、呻いて崩れた。
「駄目〜!!!それ以上は、本当にコムリンが壊れちゃう〜!!!!!!」
「コムイ室長〜!!!?」
「奪え〜!!吹き矢なんか持ってるぞ!」
「だって、だって、このままじゃ本当にコムリンがスクラップになっちゃうんだもん!!」
「大人になってください、室長!!」
「もう、室長は引っ込んでてくださいっ!!!」
どたどたとエレベーターの上でコムイを押さえつけようと、再び混乱が繰り広げられている。
コムリンは、あちらこちらから放電を起こしながら、それでも任務を遂行しようと、倒れたへ近づいていく。
「エ、エクソシスト、手術 !!!」
「!!」
堪らず走り出したリーバーが、を抱えあげ、迫るコムリンをかわす。
それでも執拗にを追いかけようとするコムリンを、上から降りてきた人影が叩き潰した。
「「「「リナリー!!!」」」」
ダークブーツを発動させたリナリーが、胡蝶のように天空を舞い、鋼鉄の破壊力で、コムリンの上に落ちてきたのだ。
「アレンくんの、声がした・・・・・・帰ってきてるの?」
どこかまだ寝ぼけたような声で呟いたリナリーが、周囲を見渡して、ふと視線を止めた。
「・・・どうしたの?」
リーバーに抱えられたまま、意識を失っているを見つめ、呟く。
「誰に、やられたの?」
そう呟いて、リナリーは自分の足の下のコムリンを見て、それから視線をエレベーターへ上げた。
「・・・・・・兄さん、に何したの?」
「いや、僕は何も 」
冷や汗をかきながらコムイが答えるが、リナリーは再び問いを口にした。
「 に、何したの?」
「コムリンは悪くないんだ!!悪いのはコーヒーであって 」
コムイは言い訳をしながら、リナリーに訴えかけるようと、エレベーター先の砲台へとそろそろと身を乗り出してくる。
「罪を憎んで人を憎まず、コーヒーを憎んでコムリンを憎まずに 」
「兄さん・・・・・・にしたこと、ちょっと反省してきて」
そう宣言を下したリナリーが、足下のコムリンを思いっきり蹴り上げた。
華麗に宙を舞ったコムリンは、一直線にコムイに向かい、ぶち当たった。
衝撃で弾き飛ばされたコムイは吹き抜けの天井付近の壁にぶち当たり、蹴り上げられたコムリンは、慣性の法則に従って、地面に向かって落下し .
「あ、危ないっ!!!」
誰の叫び声だったか 大きな物体に押しつぶされて、アレンの意識は暗転した。
最後にアレンが認識したのは コムリンに潰されるのは今日2度目だし、・・・厄日? というどうでもいいことだった。
「目が覚めた?」
「・・・ここは・・・・・・?」
「科学班の研究室。みんな城内の修理に出払っちゃってるの」
ゆっくりと目を開けたアレンに、リナリーがにっこりと微笑んだ。
「おかえりなさい、アレンくん」
「た、ただいま・・・・・・」
かわいい!!
リナリーの笑顔に、アレンの心臓が高鳴った。本当に、黒の教団は美人が多い。目の前のリナリーといい、隣のソファーで眠っているといい って、隣っ!!!!!!?
本日二度もアレンをコムリンの下敷きにした二人の女性に挟まれていたことに気付いて、アレンは冷や汗を浮かべた。
「・・・、二発も麻酔針受けちゃったから、もう少し眠るみたい・・・」
そう言って、リナリーはの額に落ちる髪にかるく触れた。
その表情に、その指に、リナリーがを心の底から心配しているのが見て取れた。
「これからよろしくね、アレンくん」
微笑むリナリーに、アレンは曖昧に頷いた。
リナリーとは仲良くなりたい。けれど・・・・・・
「もー!何で料理長のアタシが大工しなきゃなんないのよ!」
「人手が足んないんスよ」
「お!アレン、目が覚めたか」
どやどやと科学班の面々+αが部屋に戻ってきた。その誰もが、当然のようにアレンに声をかける。
「おかえり、アレン」
その言葉が嬉しくて、そしてどこかくすぐったくて、アレンははにかんだ笑みを浮かべた。
教団内の惨状を口々にアレンに愚痴る科学班の面子から、すっと離れたリーバーが、の眠るソファーに近づいたのをアレンは気付いていた。リナリーと同じように、そっとに触れるリーバーを横目に見ながら、アレンは心の中で謝った。
みんな、彼女のことを悪く言わないが、あまり仲良くはなりたくないかもしれない。師匠の関係者なら尚更だが、それ以上に、アレンは見てしまったものを忘れていなかったから。
確かに、刻んであったのだ。
一瞬だったが、刻まれた傷は、こう読めた RIVER.W と。
あの包帯の下に、そんな傷が刻んであることを、あの人たちは、リーバーさんは知っているのだろうか?
かまってくれるみんなに微笑を返しながら、アレンは心の中で思っていた。
出来るだけ、係わり合いにならないほうがいい・・・あのという人には .
それが不可能になることをアレン自身が知るのは、もう少しだけ先のこと。
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