アクマを壊した残骸が塵となって周囲を漂う。は軽く頭を振ってその埃を払い、ふぅと大きく息を吐いた。
「ん〜〜やっと片付いたさ」
「数多かったからね」
自身のイノセンスに凭れ、疲れたように言うラビに答えて、は大きく伸びをした。アクマの数が半端なく多かったので、さすがに体が軋んでは僅かに顔を顰めた。
「もう歳かな・・・」
「?」
ラビが首を傾げて名を呼んだが、は肩を竦めることでその問いに返した。
「ケケケケケケケケ、ケケケケ!!」
突然の嘲笑に振り返ると、どこに隠れていたのかアクマが一体そこに居た。
壊れたように笑い続けるアクマに、は溜息を一つ。
「・・・まだ居た」
「うっわ〜最悪かも・・・」
呟く言葉とは裏腹に、ラビの眉根は寄せられ、口元は苦々しげに歪む。
「た、助けてっ!」
アクマは二人をここまで案内したファインダーを盾にしていた。
「ケケケケケ、コ、殺ス!!!!!」
アクマが叫びながら、ファインダーの頭を握る手に力を込めた。
ラビが跳躍し、が走る。だけど、間に合わない
「がぎゃっ!!!」
血が、脳髄が、骨が、さっきまで人の一部だったものが飛び散る。
ラビのイノセンスがアクマに突き刺さり、の拳がアクマにめり込む。
「ギャギャギャギャ!!!?」
アクマが耳障りな音をたて消滅した。しかし、既に嘗ての仲間は只の物体に成り果てていて。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・最悪」
頬に付着した血を拭いながらは呟いた。
無意識に舐めた唇は付着していた血痕の為か、苦い鉄の味がした。
「おかえり、ラビ、」
「ただいま〜」
「ただいま、リナリー」
本部に帰ってきた二人をリナリーが笑顔で迎えてくれた。
「二人とも怪我してない?」
「大丈夫よ。ありがと、リナリー」
「大丈夫さ!それから、オレがの美肌に傷を付け 」
「よかった、が無事で」
「いやだ〜、リナリー優しい!!」
リナリーに言葉を遮られたラビが隣で項垂れているが、気にしないことにする。
「・・・・・・コムイのとこ報告に行ってくるサ」
テンションが下がっているラビ。
「いいよ、私が行くから。ラビは休んでていいよ」
の言葉にラビのテンションが急浮上する。
「!オレのこと考えて 」
「だって疲れてるでしょ、無理しないでね?」
「いや〜ん、リナリー大好き!!!」
は思わずリナリーを抱き締めた。隣でラビが拗ねているが、気にしないことにする。
「じゃぁ、報告行ってくるから、また後でね」
そう言っては手を振った。笑顔で手を振るリナリーの後ろから、凹んでいたはずのラビもちゃっかり手を振ってくれている。
そんな二人にも思わず笑みを浮かべた。
優しいリナリーも、楽しいラビも、自分にとって大切な家族のような存在になっている それを感じて、胸の中に何か温かいものが灯っている気がするのは、多分気のせいじゃないとそう思う。
科学班の元へ向いながら、は幸せそうに、その顔に微笑を浮かべていた。
「あれ、コムイ室長は?」
ドアを開けると、いつも居るはずのコムイ室長の姿が無くて、は椅子に腰掛けて書類に目を通していたリーバー班長に訊ねた。
「あぁ・・・今ちょっと外してる」
急ぎの仕事が終わった直後なのか、珍しく科学班の部屋はその広さを実感させるようにリーバー班長が一人居るだけだった。はソファーの上に積み上げてあった書類を蹴落とし、適当な場所を確保すると、そこに腰を下ろした。
それから無言の時間が流れ、部屋にはリーバーが書類を捲る音だけがする。
しばらくして、リーバーは飲んでいたカップを持って立ち上がった
「・・・・・・も、何か飲むか?」
「ん・・・・・・要らない」
まだ口中で鉄の味がする気がして、は飲み物を摂る気になれなかった。
自分の分の珈琲 いや、コーラーかもしれない を取りに向かうリーバーの後姿をぼぅっと見つめる。
( あ、何か背中が疲れてる・・・・・・・・・髭も伸びてた気がする・・・・・・目の下にも隈、出来てた気がする・・・)
「・・・どうした?」
「ん・・・・・・別に」
そう答えたものの、はぼぅっとカップに口をつけるリーバーの顔を見つめる。
( あ、やっぱり、隈出来てる・・・)
「おい、大丈夫か?」
リーバーが心配したように眉根を寄せて、の顔の前で手を上下に振った。
「ん・・・疲れてる?」
の言葉にリーバーが驚いたように目を見張る。
「・・・・・・疲れてるって・・・それはの方だろ?」
「ん・・・平気。リーバーの方が疲れてそう・・・」
の言葉にリーバーは困ったように自分の髪を掻き回した。
「まぁ、疲れてないとは言えないけどな・・・・・・こそ、任務お疲れ」
そう言ったリーバーには唇を寄せた 軽く触れるだけのキス
「甘・・・・・・」
離れた唇を無意識に舐めて、が呟く。
「コレ飲んだ後だし」
「そ」
示してみせたカップに、リーバーが再び口をつける。そのカップが離れたその場所に、が再び唇を寄せる。
リーバーの唇は、とても甘くて。
「・・・癖になりそ」
「癖になっちまえよ?」
ぼそっと呟いたの言葉。リーバーが返すのは笑みを含んだ言葉。
「それはイヤ」
「あ、そう・・・・・・」
あっさり断られてしまっては、リーバーは苦笑を漏らすしかない。
「あ・・・・・・コムイ探して報告しなきゃ」
ソファーから滑り降りて、は扉に向かう。
「」
「何?」
リーバーに呼ばれて、扉に手をかけたままが振り返る。そのにリーバーが歩み寄る。
「おかえり。・・・まだ言ってなかったから」
「うん・・・ただいま」
手を伸ばしてリーバーに触れる。はゆっくりとリーバーの肩に顔を埋めた。
今この瞬間、自分がいるべき場所にいる。帰ってきた その幸せにの胸はいっぱいになった。
願わくばこの幸せがいつまでも続きますように・・・・・・
アクマを倒した後はいつも少しナーバスになる。
理由は多分 それが私と似てるから。
だけど、あなたが待っててくれるから、私はここへ帰ってこれる。
例え世界が闇に沈んでも、あなたがいれば光が見えるから
全てを信じられなくなっても・・・あなたには生きていて欲しいから
46音で恋のお題「甘い水」より
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