僕は 水のない世界に住む 泳げない魚のように
君は 音のない世界を往く 鳴けない鳥のように
降り積もる静けさの中
すれ違いながら 僕たちは どこか共鳴してる
選んでよ
「偶然! こんな日に何してんの?」
バイトからの帰り道、立ち寄ったコンビニで、クラスメイトのに声をかけられて、正直俺はかなり驚いた。
未成年の女の子が一人でふらふらしていたら、確実に補導されるような時間だ。
そんな時間に偶然立ち寄ったコンビニで、それも惣菜パンを持ってレジに並んだ瞬間に声をかけられたら、誰だって驚くのかも知れないが 声をかけられるまで、がいることに、俺はまったく気が付いていなかったのだ。
真っ黒のダウンジャケットを羽織り、大きめのジーンズを穿いた後姿は、その長身も相まって、申し訳ないが男にしか見えていなかったのだ。
そんなわけで、俺が状況を理解して質問に答えるまで、少々の間が空いてしまったのは、仕方がないと思って欲しい。
「・・・バイト帰りだ・・・・・・が、は?」
「僕? 僕は、な〜んか小腹が空いたから、出てきてみたん」
そう言って、は今まで眺めていたケースを指差した。
「な、茶度、『絶品!牛タン饅』 と 『究極!カレー饅』 と 『とろける☆黒蜜アイスパフェ』 と、どれがええと思う!?」
「・・・・・・アイスは何か違うだろ」
明らかに、アイスは仲間外れだろう、そのラインナップの中では。
「おっし、決めた! ありがと、茶度。あ、すいませ〜ん」
そう言うと、は店員を呼んで、
「 『こだわりの豚角煮饅』 と 『元祖!焼きそば饅』 と 『美味!白玉あんみつフルーティ』、全部一つずつお願いします!」と言った。
・・・・・・さっき俺に尋ねたラインナップと違うと思うのだが?
そう思っている間に順番が来て、流れ作業のように俺の会計が済んだ。
店員からレジ袋を受け取ると、ちょうども会計を終えたところだった。
そのまま、なんとなく並んで自動ドアをくぐる。
「寒っ!!」
が叫んで、ジャケットの帽子を目深にかぶった。
そうすると、本当に女の子には見えない。申し訳ないが。
「はい! せっかくだから茶度も食べん?」
ガサゴソとレジ袋をあさっていたが、湯気のあがる物体を俺に差し出した。
近すぎて一瞬分からなかったが、それが先ほどが買っていた肉饅だった。
「・・・・・・いや、だがそれは、が買った・・・」
「ええやん?! ここで会ったが何とやら、半分こしよ? ・・・それとも、迷惑やった?」
俺が答える前に、俺の腹が返事をした。
「ほれ、喰ったらええやん! ちゃ〜んと、豚角煮饅も半分こするから、さ」
豪快に笑いながら、は俺の手に焼きそば饅と豚角煮饅を押し付けた。
「・・・すまない、ありがたく頂く」
「それがええわ。ほら、冷めちゃうよ」
そう言って、は自分の手元に残った半分に噛り付いた。
「うっまぁ〜!! 選べんときは、やっぱ二つ買っちゃうわぁ・・・・・・でも、二つとも食べると、明日の体重が心配になるんよ・・・」
そう言いながら、は本当においしそうに肉饅に噛り付いている。
コンビニの明かりが届く路上で、両方の手に持った饅頭を、二人並んで食べる。
今日が何の日か忘れてしまいそうだ。
「残念やけど、『白玉フルーティ』 は僕が部屋で一人美味しく頂くから、茶度の分はナシ・・・・・・お?」
焼きそば饅を食べ終えたが、不意に空を見上げた。
俺もつられて顔を上げれば、空からちらちらと舞う白い雪 .
「うっわ〜、寒いと思ったら、降ってきたよ」
「うむ」
二人の吐く息が白く上っていく。
この饅頭を食べたら、を家まで送っていこう、そう思った。
その長身や格好から、男に見えても、を一人で帰すわけにはいかないだろう。
「茶度」
「ん?」
視線を下ろすと、と目があった。いくらが身長が高いといっても、俺のほうが大きいため、俺はを見下ろす形になる。
俺の視線の先で、がニヤリと笑った。
「なんつぅーか、中華饅食べながら言うセリフじゃねぇんだけど、さ」
「うむ」
白い雪が音もなく、俺たちの間に降ってくる。
多分、この雪は積もらない。
明日の朝になれば、消えてしまうだろう。
だから .
「メリークリスマス、」
「メリークリスマス、茶度」
が空を見上げてから、もう一度俺を見て微笑んだ。
46音で恋のお題より「選んでよ」
2007年クリスマスの企画夢を修正
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