失くしたものを諦めるのは こんなにも簡単なのに
捨ててきたものを葬るのは こんなにも容易いのに
どうして
手に入れられなかったものだけ こんなにも忘れられないのだろう
「久しぶりじゃな、」
ゆっくりと目を開ければ、あの日見上げたのと同じ青空が広がっていた。
その視界の片隅で、尻尾が揺れる。
「・・・毎朝、すれ違っとったやん」
「やはり、覚えているのじゃな?」
「・・・・・・もう忘れた」
その答えに黒猫の尻尾が楽しそうに振れる。
寝転がったまま、日差しの眩しさに僅かに目を細めては黒猫を見上げた。
「ウチも戻ったんや。ソッチも、そろそろ元の姿に戻ったら? 夜一サン」
「心配無用じゃ! 儂はと違って、いつでも戻れるからのぉ!!」
黒猫の姿のまま、偉そうに踏ん反り返った夜一に、が小さく鼻を鳴らす。
「それにしても、この姿のを見るのは本当に久しぶりで懐かしいのぉ! 儂はコッチのの方が馴染み深いからの おっ?!!」
「やめぇ」
解かれて広がるの長い髪で遊ぼうとした夜一の首根っこを捕まえて、溜息を吐く。
身体を捻った夜一から、あっさりと手を離して逃がしてやる。
つまらなそうにの隣に腰を降ろして、夜一は小さく顔を洗った。
「・・・随分と、気に入っていたようじゃな?」
何が? とは尋ねずに、は黙って夜一を見つめた。
黒猫の姿のまま、器用に肩を竦めて溜息を吐き出して、夜一はつり上がり気味の瞳でを見つめ返す。
「義骸に負担をきたすほど、執着しておったのだろう?」
夜一から視線を外して、は空を見上げた。青空に、白い雲が流れていく。
「定期的に記憶と感情を消さねば、あの義骸でも霊圧を完全に遮断出来ないと分かっていたと言うのに、おぬしは・・・」
吹き抜けていく風が心地好くて、目を細めて季節を感じる。夏は、終った。
「"睡眠"というカタチで強制的に意識を閉ざさねば保てぬほどだったではないか? あれには、喜助も肝を冷やしておったぞ」
そよ風と注ぐ日差しに、は目を閉じた。
「・・・・・・そんなに似ておったのか?」
「全然。別人。似てへんし、同じやないって分かっとる」
「・・・うむ。なら、よいのじゃが」
パタリ、パタリ、と黒猫の尻尾が揺れて地面を叩く。
風が吹いて、の髪が靡き、夜一のヒゲが揺れた。
「・・・・・・・・・茶度の修行は上々じゃ。阿散井も協力しておるしな」
「ふ〜ん」
「あやつはまだまだ強くなるじゃろうて」
パタリ、パタリ、黒猫の尻尾が地面を叩く。
風が吹いて、木立がサワサワと音を立て、木漏れ日が揺れた。
「・・・・・・・・・・・・は、何故こんなところにおるのじゃ?」
「黒崎が来てる」
「ああ、なるほど・・・・・・一護の奴は、おぬしに気付くかのぉ?」
「どうやろ」
「・・・・・・気付かれたくはないか?」
パタリ、と黒猫の尻尾が止まった。青空に、白い雲が流れていく。
黒猫はジッとを見つめた。
「・・・・・・・・・良いのだぞ。おぬしが望むなら、また学校に戻っても 」
「夜一サン」
の目が、夜一を真っ直ぐ見つめていた。口元が困ったような笑みを浮かべる。
「今更、ウチに学校へ行けって?」
「望むのなら」
「笑わせんといて。ありえへんわ」
は、寝転んでいた体を起こして、ぐっと伸びをした。長い髪が風に揺れる。
「」
ザッと強い風が吹きぬけて、夜一のヒゲを揺らす。
「、人を想うのは悪いことではなかろう?」
肩越しに振り返ったは、夜一に苦笑してみせた。
「もちろん。悪いことやない 」
風に長い髪を靡かせたまま、が空を仰ぐ。
「 でもそれは、夢の中でしか許されてへんかったんよ、ウチにはね・・・・・・」
眩しそうに目を細めて、青空を見上げて彼女は小さく微笑んだ。
「アレ? いないのはわざとだと思ってたけど?」
声をかけてきたローズに軽く手を上げて、重たい空気を睨みつける。
ぐるりと視線を巡らせて、は小さく溜息を吐いた。
「何や、戻ったんか?」
「修行は?」
一護のオレンジ色の頭が見当たらない。
内なる虚‐ホロウ‐を押さえ込むために、黒崎一護が来ているはずだった。
の問いに、平子は肩を竦めた。
「まだるっこしいのは嫌やと言いよるからな」
「ホント、困っちゃうよね」
ローズも呆れたように肩を竦める。その視線の先を追って、は眉を寄せた。
結界の中、ひよ里と虚が派手に戦っている。
あの虚が虚化した一護だとすると .
「コレ、時間は?」
「一人10分」
「後ぉ残ってるのは、結界張ってるハッちんとラブだけだよ〜ん」
「ワタシ、まだ計算に入ってるんデスね・・・・・・」
「ふーん」
虚化した一護を観察しながら、は上着を脱いだ。ギョッと、拳西が顔を引き攣らせる。
「?!! まさか、お前もやる気か?!」
「まで付き合う必要あらへんよ」
驚く拳西と眉を寄せたリサには構わず、は解いていた髪を手早く纏め上げる。
「一人10分ってことは、2週目はナシやろ? だったら、ウチにも時間稼がせぇや」
虚化制御の為の内在闘争の限界時間は60分前後だ。2週目は無い。
図星を指したに、リサは口を告ぐんだ。
「次、ウチ入るわ。ここまで虚化しとったら、遠慮はいらんやろ?」
「まぁな・・・・・・」
渋々、拳西も頷いた。
はぐぐっと伸びをする。
「久しぶりやから、身体、慣らしときたいんよ」
の言葉に、ローズも呆れたように溜息を吐いた。
「の気持ちは分かるけど・・・・・・」
「5分や」
振り返ったに、平子がニヤリと笑った。
「5分だけや。それ以上は、結界が保たん」
「そうしていただけると助かりマス」
苦笑する鉢玄に、は頷く。
「了〜解」
「10分経つぞ」
ラブの声に、結界へ向かって歩き出す。
「ハッチ。結界、後5枚追加や」
「はいデス」
平子の言葉に頷いて、鉢玄が手早く結界を張る。
「っちに、プラス5枚で足りる?」
「分からん。とりあえず、踏ん張っとき」
「分かってマス」
苦笑を濃くする鉢玄を視界に納めて、平子はの背中に目を向ける。
「用意はええな?! !!」
平子の言葉に答えたの口元には、しっかりと歪んだ笑みが載っていた。
serenade / さよならのわけ より 「やっと分かったんだ、夢だって」
だからもう望まない・・・・・・
ブラウザバックでお願いします。