右手に力を 右手に剣を
左手に希望を 左手に思い出を
だから 俺は だから 僕は
取り戻したいんだ 惨めに感じるんだ
走って、逃げて それでどうするつもりだなんて、分からない。
(・・・・・・俺は・・・・・・・・・!!)
破面-アランカル‐に殺されかけたことよりも、ショックだった。
(・・・俺は・・・もう・・・・・・)
共に戦うと言ったチャドの言葉を、一護は受け取らなかった。
自分に任せて、下がっていろと言った 今まで、ずっと背中を托けてくれたのに。
一護の背中がとても遠く感じたことが、何よりショックだった。
(・・・・・・俺が・・・・・・・・・!!)
一護はもうチャドに背中を托けてはくれない .
一護はもうチャドと並んで戦うことはしない .
(・・・俺が、弱いから・・・)
自分の無力さを痛感していた。
一護がもう自分と共に戦おうとしないのも。
もうがいないもの 殺したのは、自分の弱さだ。
自分が弱いから、すべては、自分の力がないせいだ。
自分の拳で、もう誰も守ることが出来ないから .
「!?」
チャドは足を止めた。
真夜中の道の先、誰かがいた。
起きている者だっているだろう。何者かに出会うことだってあるだろう。だが .
「・・・・・・・・・」
チャドは、右腕を構えた。
その霊圧は、夜の散歩を楽しむ一般人では有り得なかった。
「・・・・・・アランカルの仲間か・・・?」
その者は、異様な仮面を被っていた。
それは例えるなら 鬼だった。
剥き出しの歯列と、数多の角を持ち、棘に囲まれたその面は、鬼にしか見えなかった。
目の周りを縁取った線と、並んだ斑点、そして、まるで泣いているかのような筋が一つ。
そして、何よりも異様だったのが、目だった。
仮面の奥から覗く、本来なら眼球があるはずの場所から覗くのは、真っ赤な瞳だった。
暗い仮面の影から、真っ赤な目玉がじっと見つめてくる。
「・・・・・・・・・く!!」
その不気味さに、チャドは思わず一歩退いていた。
靴の下で踏みしめた小石が鳴って、初めて一歩後ずさったことに気付いた。
(これでは・・・これでは、駄目だ!!!)
チャドはグッと腰を落とした。
ここで引いたら、今度こそ戻って来れない 本当に、敗者になってしまう。
二度と、一護と共に戦うこともない。
大切な人を守れもしない。
今度こそ、本当に全て失ってしまう。
もう、全て失っているくせに .
「・・・・・・!!!」
心の内で何者かが呟いた。
チャドの中に住みついた、弱い心が呟いた。
もう、敗者のくせに .
ジリッと、無理矢理足を踏ん張った。
そうしないと、逃げ出してしまいそうだった。
まだ間に合うと思っていたのか? もう .
「俺は !!!」
叫んで、仮面の鬼に向かって走り出した。
鬼は動かない。ただ、じっと赤い瞳で見つめている。
(・・・動かないのは、俺など簡単に殺せると思っているからか!!? だが、それでも、俺は逃げたりしない!!!)
仮面に向かって拳を振り上げながら、死んでもいいと思った。
一護も必要としない自分など、を助けられなかった自分など、最早存在する必要などないと思った。
どうせなら、潔く、戦って .
「!!!!?」
鬼には届かない、届く前に自分の命がなくなるだろうとそう考えていたのに、チャドの拳は仮面に突き刺さった。
鬼の仮面に無数の亀裂が入るのを眺めて、漸くチャドはその者が長い髪を纏めていることに気付いた。
拳を顔に受けながら、一歩もよろめかなかったその体つきが、女性のシルエットをしていることに気付いた。
チャドの攻撃を全てその仮面が受け止めたのか、無数の亀裂が入ったそれが、割れた。
「!!?」
チャドは驚愕に目を見開いた。
(まさか・・・・・・?! いや、顔が違う・・・髪の長さだって・・・・・・・・・・・・だが・・・そんな・・・・・・)
割れた仮面の下にあったのは、その体つきに見合う女性の顔だった。
瞬きすらせず、チャドの顔をじっと見つめている。
その瞳の強さに、覚えがあった。
「・・・・・・迷ってるヒマ、ないよ」
その口調に、覚えがあった。
「・・・悔しいんなら、前に進まんと」
自分を見つめるその存在に、覚えがあった。
「そうやろ? チャド」
自分の名を呼ぶその声に .
「!!?」
チャドの声に、一瞬だけ、驚いたように見開かれた目は、だがすぐに感情を隠す。
「強うなり、チャド・・・・・・僕を追いかけるつもりなら」
チャドが伸ばした手の先に、その姿は掻き消えた。
まるで全てがチャドの見た幻だったかのように .
「・・・」
チャドは、足元に目を落とした。
割れた仮面のカケラが、空気に分解するかのように消えようとしていた。
「俺は 」
チャドは空を見上げた。
雲の隙間から、太い三日月が自分を照らしていた。
「・・・浦原さん・・・」
かけられた声に、浦原喜助は内心で溜息を吐いた。
と茶度泰虎との間に恋愛感情があったなんて、平子真子から聞いていなかった。
聞いていれば、もっと方法を考えたのに・・・・・・。
が死んだことになってまだ日が浅い。
面倒なことを言われたらどうしよう? 落ち込みが激しいようなら、無駄に良心が痛みそうだし。
あぁ、嫌だ嫌だ。
だから、平子の案に乗るのは気が進まなかったんだ・・・・・・。
内心の溜息を押し殺して、浦原は軽い調子で振り返った。
「おやぁ、茶度サンじゃないっすか♪ 何か御用・・・」
ダン、と地面につかれた両拳に、浦原は目を見開いた。
「頼む・・・! 俺を鍛えてくれ・・・!!」
「はい?」
下げられた頭に、浦原は間抜けな声をあげていた。
扇子と帽子の影で隠した顔には、理解不能と書かれていたに違いない。
頭を上げたチャドの目に、強い決心を読み取って、浦原は口元を引き締めた。
(・・・・・・茶度サン、あなた、サンのことを・・・・・・)
覚悟を決めたチャドの目を受け止めて、浦原は扇子を閉じた。
まっすぐにチャドを見つめ返す。
「・・・分かりました。お引き受けしましょう」
(・・・・・・それが、どんな希望を生むのか・・・それとも絶望となるのか・・・・・・アタシも賭けてみますか・・・)
浦原も覚悟を決めて、頷いた。
あいうえお行で5種のお題/二人のお題より「求める人 求められる人」
この道を再び交わらせる、そのときのために・・・・・・
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