分け与えられるものなんて 何もない
共有できることなんて ひとつもない
それでも 僕らは 今を 生きてる
長い夏休みが終わった。
例年通り、とても暑かった夏は、去年と同じように、大した思い出も残さず過ぎ去った。
何事もなく過ごした日々は、特に記憶にも残らず、今日からいよいよ新学期だ。
久しぶりに友人たちに会える嬉しさと、憂鬱さの両方を抱えて、は教室の扉を開けた。
「ちゅ〜っす・・・・・・はぁ、ダル」
「あ! !! おっはー」
「おはよう」
「おっはよ!、随分久しぶりじゃない?」
かけられる言葉に、軽く首を捻る。
「ん〜そうかも? 気持ち早く夏休み始めちゃったから・・・・・・あ〜越智に言い訳すんの、メンド」
「そう言えば、一学期の最後、休んでたよね? どっか旅行でも行ってたの?」
「海外? どこどこ?!」
溜息を吐いて肩を竦める。
「んなワケないやん。夏休み中、ずっと空座町に居ったし・・・・・・海外行く暇も金もないっつ〜の」
「え、本当? でも、と全然会わなかったよね?」
「・・・って、。あんた、さっきから心の声がただ漏れしてるよ・・・?」
「あ、マジ? 夏バテかな? 気ぃつける」
の言葉に、タツキは笑った。そんな夏バテの症状、聞いたことがない。
「、あんた夏休み中、何してたわけ? あの花火大会以来、全然見なかったけど」
タツキの言葉に、は再び首を捻った。
「何してたっけ・・・・・・あ〜、覚えてないや・・・って、邪魔」
あっさりと言い切って、は、情けなく床に突っ伏している浅野を蹴飛ばした。
それでもウジウジしている浅野に溜息を吐いて、隣に立つ水色に尋ねる。
「どうしたん、コレ?」
「何でぼくに訊くのかな、さん?」
「ん〜、何となく」
「自分の存在意義を見失ったらしいよ」
「あ〜なるほど。って、今更?」
「さん、ヒドイィィィ!!!水色も、何だ、その説明はっ!!!!?」
ガバッと浅野が跳ね起きた。
「さん!! 見てください、あそこ!!!!!!」
そう言って、浅野が指さした先には、一護、茶度、織姫、石田が集っている。
「どうしてっ!!? どうして、美女、野獣、メガネ、& 一護?!!
何故に、プリンセス & モンスター & メガネ & 一護!!!? あそこ、あんなに仲良かったっスか?!!」
「どうだったっけ?」
「さぁ? 夏休み中に、仲良くなったんじゃない?」
ノリの悪いと水色に、浅野が声を荒げた。
「その何か!! に関わっていない俺・・・・・・果てしなく募る、壮大な仲間外れの予感・・・」
うぅぅ、と泣き崩れる浅野に、タツキも溜息を吐いた。
「気になるなら、訊けばいいでしょ? 仲間に入れて欲しいなら、そうしなさいよ・・・」
「・・・それが出来れば苦労しないよぅ!!! ナイーブな俺、大ピンチ!!!」
大袈裟に嘆く浅野に、水色とタツキが呆れて溜息を吐いた。
「・・・・・・・・・ウザ」
の呟きが、ザクリと浅野に突き刺さった。
さらに落ち込む浅野を放って、タツキは一護に視線を向けた。その腰にぶら下がる、変なアクセサリーに目がいった。
「何それ? 趣味悪・・・」
「え? あ、いや、このお守りは・・・」
慌ててぶら下がっているお守り袋を隠そうとする一護に、タツキは首を振った。
「それじゃないよ。そっちは、どうせ、あんたの親父のイタズラでしょ」
「・・・すげぇ・・・よく、わかったな・・・・・・」
タツキの洞察力の鋭さに、思わず一護が驚きの表情を浮かべる。
「あたり前でしょ。あんたの周りで、他に誰がそんなことすんのよ・・・」
そんな一護に呆れたように言って、タツキはもう一つのアクセサリーを指さした。
「だから、それじゃなくて、そっちのドクロが、どうしたのかって訊いてんの!」
「あー、これか? これは、えっと・・・こないだ買っ 」
言いかけて、一護が驚いたようにタツキを見つめた。
「 たつき、オマエ・・・これが見えるのか?」
「え?」
一護の言うことのワケが分からず、タツキは戸惑った。
何かマズイことを言っただろうか?
意味が掴めずにいるタツキの隣から、一護を覗き込んだが呟いた。
「・・・デカ過ぎやし、形も変。もっと、小っさい方が可愛いのに・・・」
「えっ?! 、あんた趣味悪い・・・・・・」
「そう?」
思わず突っ込んだタツキには分からないという風に首を捻っている。
「おい!!! お前ら、これが見えるのかよ?!!!」
慌てて声を荒げて再度尋ねる一護に、タツキは訝し気に眉を寄せた。
「何それ?どういう 」
「あ。越智来たよ・・・・・・あ〜、メンド」
一護が答えを聞く前に、担任の越智が入ってきた。
ガヤガヤと席に着くクラスメイトたちに倣って、タツキとも席に座った。
出席を取り出した越智の声を聞きながら、眠たそうにアクビをして、は早々に机に突っ伏し睡眠をとる気でいる。タツキも、夏前と何も変わった様子はない。
越智の話を聞き流しながら、一護はドクロマークの印刷されたアクセサリー 死神代行戦闘許可証、通称・代行証を疑いの目で眺めていた。
確か、渡してくれた浮竹さんは、『普通の人間には見えないよう視覚防壁を自動で発生させる仕組みになっている』とか言っていたはずなのだが、普通の人間である、たつきやに見えているようで .
「・・・・・・早くも故障か?」
胡散臭い目で代行証を睨みつけた瞬間、ドクロの目が光った。
「ああッ!! せ・・・先生!! ボクも漏れそうっス!!」
「お前はダメだ、浅野」
教室では、後を追おうとした浅野が越智にしっかりと止められていた。
「・・・・・・・・・マナーモードにしといてぇ・・・・・・」
校庭を走っていく死装束の一護の背中を見送りながら呟いた。
アクビをして、はもう一度、机に突っ伏した。
学校からの帰り道、後頭部を押さえてアクビをしながら歩いているを見つけた。
「・・・・・・」
「うぃ〜っす、茶度」
久しぶりだった。
尸魂界へ行く前に話して以来だから、一月ほど空いたことになる。
花火大会で会ったとき、は脚に怪我をしていたが、治ったのだろうか? 見る限り、以前と変わらず、怪我の障害も見られないようだが .
「腹痛は治ったん?」
チャドが尋ねる前に、が先に訊いた。
いつもそうだった。チャドが言葉を探しているうちに、の方が口を開く。
に訊かれて、そう言えば一護を追って教室を飛び出す時に、そんな言い訳をしたのを思い出した。
「・・・・・・治った」
「そ、良かった」
今更、あんな嘘を吐いて教室を飛び出したことが少々後ろめたい。
「他に痛いとことか、ないん?」
そんなことを尋ねられて、チャドは改めてを見た。
「・・・大丈夫だ」
「なら、良し!」
そう言って、は満足そうに笑った。
「・・・こそ、大丈夫か?」
「ん?」
「夏休み直前に、確か、脚と肩を・・・・・・」
「あ!! あれね?!」
忘れていたのか。忘れていたに違いない。
「もう、全快。めっちゃ平気。気にしてくれたん? ありがと〜な」
「・・・・・・いや・・・ウム。それなら、問題ない」
「お互い、夏休み中、無事でなによりやん!」
満足そうに頷くを、チャドは複雑な気持ちで見つめていた。
尸魂界へ向かう直前、はチャドに言った。
僕に許可なく、死んだりすんなよ .
まるで茶度が尸魂界へ行くことを知っていたかのように。
さっきだって、まるで尸魂界へ行ったことを知っていたかのような質問ではなかったか?
(・・・・・・・・・考えすぎか・・・・・・・・・)
知っているはずなどない。深読みのしすぎだ。
以前の言葉も、今の質問も、単に夏休み全般に対することで、尸魂界のことを指していたわけではないのだろう。
「・・・は、どうだったんだ? 夏休み・・・・・・」
「うん? 僕?」
チャドの問いに、が首を捻った。
「・・・特に、何も。普通に、あっちゅう間。日記の宿題もないから、なんも問題ないけど・・・・・・ふぁぁぁ」
答えながら、の口からアクビが漏れた。
そういえば、教室でも随分と眠たそうだったことを思い出した。
「・・・・・・寝不足か?」
「うんにゃ〜、ちゃんと寝てんだけど、何か眠くて・・・・・・ふぁぁ〜」
そういいながら、は再びアクビを漏らした。
「おかげで、越智に後頭部、思いっきり叩かれるし・・・・・・」
気まずそうに、後頭部を押さえてが顔を顰めた。未だに痛むらしい。
「・・・夏バテか?」
「そうかも・・・ふぁぁぁ〜ぁ・・・」
大きなアクビをして、は眠そうに目を擦った。
「・・・大丈夫か?」
「ダメだぁ・・・ちょい寝てく・・・・・・」
「おい・・・?!」
ふらふらとした足取りで、はちょうど通りかかった公園へと入っていく。
慌ててチャドも後を追った。
「眠い〜、眠い〜、だるい〜・・・・・・」
ブツブツと呟きながら、は手近にあったベンチに、ペタンと腰を落とした。そのまま、コテンと横へ倒れこみ、おまけとばかりに、脚をベンチに乗せた。
「?!」
「ん〜?」
「・・・・・・・・・スカート、めくれてるぞ・・・」
「あ〜、マジで? ありがとぉ・・・・・・」
すでに目を閉じたは、適当にスカートを引っ張って、大きなアクビをした。
「・・・・・・・・・」
「・・・ん〜・・・?」
「・・・本当に、こんなところで眠るつもりか?」
「・・・・・・ん〜・・・・・・・・・」
返ってきたのは、半分以上夢の中の音で、チャドは困って頭上を見上げた。
夏休みが終わったとはいえ、空はまだまだ真夏の太陽が輝いている。まだまだ、ジリジリと肌を焼く、激しい日差しだ。
生憎、の寝転んだベンチは、降注ぐ日差しの真っ只中にあり、木陰はまだここまで届いていない。
「・・・・・・・・・こんなとこで眠ると、日焼けすると思うが・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・?」
チャドの声に、返事は返ってこなかった。スヤスヤと健康的な寝息が聴こえる。
こんな日差しが降注ぐところで寝たら、日焼けどころか、熱中症で命を落としかねない。
それに、を一人、こんなところに放置しておくのは、危険な気がした。
「・・・・・・・・・・・・ム。」
ドサリ、との隣に腰を下ろした。
すべて、とはいかないが、それでもの体の大部分が、チャドの影に納まった。
日差しは暑いが、吹き抜けていく風は心地よく、どこか真夏とは違ったものを感じさせた。
今年の夏は、尸魂界へ行ったりで何かと忙しい夏だった。
だから、偶には、こんなふうに、ぼんやりと太陽にあたっているのも悪くない。
もう少しだけ、が起きるまでのほんの少しだけ、このままでいようと、チャドはそう思った。
あいうえお行で5種のお題/二人のお題より「ロマンスシート」
これが最後だなんて言わないで・・・・・・
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