花火は嫌い だって一瞬だから
蛍は嫌い だって儚いから
この瞬間は永遠だ、と
あなたの口から言って欲しい
たとえ嘘でも 構わないから
8月1日 チャドは隣市の小野瀬川で行われる花火大会に友人たちと来ていた のだが、その姿を見失っていた。
浅野や水色たちと共に、一護の家族の後を追って、花火がよく見える場所まで行くつもりだったのだが・・・・・・
途中で、水色が年上のお姉様方に拉致られ、それを拗ねていた浅野が人混みに紛れ、気が付けば一護の親父さんたちを見失い、チャドは独り取り残されていた。
この人混みで彼らを探し出すことは難しいだろう。
願わくば、人ごみから頭一つ飛び出している自分を、他の皆が発見してくれることを期待しよう。
「いてっ・・・つぅぅぅ、あ〜もう!! 何でこんなに人多いんよ〜!」
耳に届いた声に、チャドは足を止めた。
急に足を止めたチャドを人々が不満そうに避けて行く。
しかし、チャドはかまわず声の主を探して周囲を見回し そして見つけた。
チャドのいる場所から少し先 数メートル程離れた場所、道の脇に人混みから弾き出された格好で立ち尽くしている後姿。
「・・・・・・?」
「・・・あ」
やはり知り合いだった。
は声をかけられて、初めてチャドに気付いたようだった。
何だか、久ぶりに会ったように思った。
「・・・・・・・・・よっ」
幾分、気不味そうにが片手を上げて挨拶をした。
「・・・・・・や」
チャドも片手を上げて返事をした。
浅野には悪いが、逸れた彼を捜すことを、チャドは諦めた。
うそつきあなた
チャドとは人混みを避けるように道を外れ、河川敷の土手を滑り降りて川原へと降り立った。
思い起こせば、あの突然のバケモノ −虚− との戦い以降、の姿を見ていなかった。
ここ最近、は学校に来ていなかったのだ。
チャドも尸魂界へ行くことを決意したりして、学校にいても、どこか上の空だったのだが そう気付くと、何を話せばいいのか分からなくなってしまった。
「久しぶり、だね」
チャドが迷っているうちにが口を開いた。
いつもこうだ。
チャドのタイミングを計ったように、が言葉を紡ぐ。
チャドを振り返って、がどこか困ったように微笑んだ。
「・・・元々そんなに仲良くないとか、そんな寂しいこと言わんといてや?」
「そんなことは・・・・・・」
「だって。ぶっちゃけ、二人っきりで喋ることって、あんまし無かったじゃん?」
確かに。チャドから声をかけることは殆ど無かったし、どちらかと言うと浅野がを巻き込んで、みんなで騒ぐパターンの方が多かった。
もしかすると、こうして二人っきりで話したのは、屋上での会話が初めてで、実は今が2回目なのかも知れない。
「あ! そうだ茶度、ベビーカステラの屋台見んかった?」
「いや、見ていないが・・・・・・」
突然が尋ねた。
前後の脈絡がないのはいつものことだが、この唐突ささえ久しぶりで、懐かしい感じがする。
「そっかぁ、無いんか・・・」
チャドの答えにが残念そうに肩を落とした。
その肩の落とし方が本当に残念そうだったので、チャドは慌てて言葉を付け足した。
「・・・橋の方まで行けば、露店も増えるだろう。そこなら 」
が不満気に口を曲げた。
「う〜、人混みは嫌なんやけど、ベビーカステラ食べたいし・・・・・・しゃぁない! せっかく抜けて来たんやもんなぁ、行かな損やわ!!」
「・・・抜け出した?」
チャドは思わず聞き返した。が頷く。
「そ。甘〜いもん食べたくなって、抜け出して来ちゃった、病院を」
「病院?」
「そ、入院してん・・・してた、じゃなくて、してる、ね」
驚いた。
が病院の白い部屋にいるのを想像しようとしたが、チャドには全く思い描くことが出来なかった。
それほどに『入院』という単語は似合わなかった。
が入院? チャドの疑問に気付いたように、が口を開いた。
「・・・河川敷の土手を派手に転げ落ちちゃって。すぐ夏休みだし、まぁいいか、って」
そう言っては声を上げて笑った。
「右鎖骨と左尺骨がイッちゃって、ね」
『イッちゃって』と言うのは折れたという意味なのか? そんなふうに、さらりと言う怪我ではないと思うのだが、はまるで他人事のようだ。
「・・・大丈夫、なのか?」
「大丈夫なんじゃない?」
「・・・・・・・・・」
「ま、なんとかなるっしょ」
そう言って、は、ゆっくりと川原を歩き出した。チャドも隣に並んで歩き出す。
「てかさ、最悪だよ? 病院は退屈だし、食事は淡白だし・・・何より、怪我のおかげで、夏休みの予定、全部ぱぁ」
そう言って、は唇を尖らせた。
「海だって行きたかったのにさぁ・・・・・・茶度は、どっか行く予定とか、あんの?」
「・・・・・・・・・いや、特にない」
尸魂界へ行くことは、には関係のないことだ。ましてや説明が難しい。
「・・・ふ〜ん。お互いつまんないねぇ・・・」
「・・・そうだな」
会話が成立しているような、していないような、微妙なやりとりをしながら、二人は川原をゆっくりと歩いていく。
人混みを離れたこの場所では、喧騒もどこか遠く、川を渡ってくる風は微かに涼しく、時間が緩やかに流れているように感じられる。
「あ、蛍!!」
突然、が声を上げた。
「ほら!! 茶度、視力よかったけ? 見える??」
「ああ・・・珍しいな」
目を凝らすと、川岸で小さな光が幾つか舞っているのが分かった。
その小さな光は、互いに寄り添ったり離れたりしながら、夏の気だるい空気の中を飛び遊んでいる。
「本当、こんな川に蛍なんて、初めて見たよ・・・・・・・・・あのさ、茶度 」
ヒュルル〜〜〜〜ドンッ
「あっ!! 花火・・・」
言葉を遮るかのように上がった花火の音で、チャドはが言いかけた言葉を聞き取ることが出来なかった。
「・・・?」
「ま、いっか・・・・・・茶度、後でベビーカステラ捜すん手伝ってよ?」
はチャドを見上げて笑った。
「どうせ無断外出で怒られんなら、食べたいもん食べとかんと損でしょ?」
そう言って、花火を見上げて、は花火よりも綺麗に笑った。
「 あ!!茶度くんにちゃんもいる!!」
「ほら、見つかったじゃん・・・」
の横顔に目を奪われていたチャドは、その声に振り返った。
「おっ?! 織姫にタツキじゃん?!! ・・・どーしたん? 後ろで泣いてんのは浅野かい?」
花火を見ていたも振り返って、手を振り返す。
確かに、有沢の後ろに半ベソをかいている浅野もいる。
多分、迷子になった浅野と、偶然出会った有沢と井上が、一緒に探してくれていたのだろう。有沢が浅野に「茶度はデカイんだから、すぐ見つかるって言っただろう?!」と話しているのが聞こえた。
「 茶度、一つ言っとく・・・」
「?」
こちらへやってくる三人を見つめたまま、が口を開いた。
「 僕に許可なく、死んだりすんなよ?」
「?!! ・・・?」
それ以上チャドが何かを尋ねる前に、はチャドの隣を離れて、井上たちの方へ歩いていく。
少しだけ、左脚を引き摺っていることに、チャドは気付いた。
どうしてそんなことを言うのか? は俺が尸魂界へ行くことを知っているのか? 疑問が次から次へと浮かんできて、チャドの頭の中をぐるぐると回っていた。
けれど、結局それ等の疑問をチャドは口に出せず、普段と同じように浅野をからかい始めたの背中を見つめることしか出来なかった。
散ることを知らないから 花火は輝くのなら
消えることを知らないから 蛍は輝けるのなら
命散る瞬間を知らないから 人は輝けるのだろう
だから僕らは 目の前の現実に いつも嘘をつく
46音で恋のお題より「うそつきあなた」
互いの嘘を知らないでいたから、まだ僕らは笑いあえたのかな・・・・・・
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