想いを告げるより先に   この命が消えてしまうなら
魂の全てで君の名を叫ぶから

想いを告げるより先に   この魂が消えてしまうなら
最後の瞬間に僕の想いを叫ぶから

この声が届くよう  耳をすませておいてはくれまいか











     想いを告げるより先に











  は走っていた。何かから逃げるように      .
        そう、は逃げていた。見えない何かから逃げていた。
  の後を、まるで追いかけるように、アスファルトが砕け散っていく。
  徐々に迫ってくる何かの存在に焦ったように、息を切らせた<が背後を振り返った。
        !?
  直感だけで地面を蹴って避ける       さっきまでがいた地面が砕ける。
  それを視認する前に走り出す       どこへ?
  そんなことは分からない。だけど走る、逃げるために。

  追って来るモノは見えない。見えないけれど、確かにいる・・・・・・嫌な気配が、後ろからずっと追いかけてくる。
  ふとした瞬間に不思議な存在を感じることはあった。
  見えはしなかったけど、何かの存在を感じたりすることはあった。
  けれど、見えない存在を信じてはいても、僕には関係ないと思ってた。
  でも       アレは何だ? 何だ? 何なんだ?!

  学校からの帰り道、河川敷で惰眠を貪ろうと思ってたら嫌な予感がして、コレだ。
  人通りの少ない場所に居たことが、良かったのか悪かったのか・・・・・・
  「・・・・・・クソッ」
  直撃は受けていないが、飛び散ったコンクリートの破片が当たって、剥き出しの脚や腕は傷だらけだ。気付けば、制服だって破れたり、汚れたりしてるし・・・・・・最悪だ! 明日、何着て学校行けってんだ!!?

  気配だけで地面を蹴って避けた瞬間、足元が弾ける。
  「って?!!」
  直撃を避けられた自分の直感に拍手を送ったのも束の間、体勢を崩したは河川敷の土手を派手に転がり落ちた。

  「ったく、痛いっつーの・・・・・・」
  再び走り出そうとした       のは気持ちだけで、走るどころか、まともに立やしなかった。
  背後の気配が質量を増す。
  追い詰められたエモノを前に、いたぶるモノの気配が強くなる。
  「・・・めっちゃ最悪」
  『ヨク逃ゲタト褒メテヤルヨ』
  「・・・・・・マジ最悪やわ・・・デカイし」
  気配を感じることはあっても、ここまではっきりと声を聞いたことは初めてで、背中を冷や汗が伝うのが分かった。
  気配を感じることはあっても、そのカタチがぼんやりと景色が霞むように見えることは初めてで、膝が震えだすのが分かった。
  『姿マデ見エルトハ、当タリダナ』
  その巨大な塊が笑う気配がした。背筋が寒くなる笑いだった。
  「・・・・・・褒めても何も出んよ・・・」
  その凶悪な気配に押しつぶされないように、震える膝を叱咤して、唇をつり上げてみせる。
  『楽シマセテモラッタガ、ソレモコノ辺デ終ワリニシヨウ』
  その声が聞こえた次の瞬間、巨大な塊から何かが高速で飛んできた。気配と直感だけでそれを避ける。
  何度も攻撃を受け続けたおかげで、はっきりとは見えないものの、巨大なそいつが何かを発射して攻撃を仕掛けている、らしいことは分かった。
  だからって、何か対策が立てられるわけも無いんだけど       と考えてる間にも連続して飛んできた攻撃に、直感と気配だけで避けるのにも限界が来たらしく、とうとう左脛に直撃した。
  バランスを崩して膝をつきながら、ここまで避けられたら直感と僕の運のよさも証明できたってもんだろうなぁ・・・・・・と思った直後、二発目が右肩にクリーンヒットした。
  衝撃で体が宙を吹っ飛ぶ。赤い滴が周りに散らばっている・・・・・・あ、僕の血じゃん。あー、結構な重傷?
  「っ、っっつぅ!!」
  背中に衝撃が来た。かなりの痛みに息が止まる。
  吹っ飛ばされて、土手に背中を叩きつけられたらしい。
  右肩からの出血は袖を赤く染めてるし、左脛の出血の方はもっと酷いらしい。骨砕けてるかも・・・・・・痛み感じないってヤバイんとちゃう?
  もう動くことの出来ないを見て、虚が笑う。
  『オ遊ビモココマデダ』
  は諦めたように息を吐いた。











  あー、マジでヤバイ。体は痺れて動かないし、避けることなんてもう出来やしない。
        ここで死ぬ       それが今、目の前に揺るぎ無い現実として立ち塞がっている。
  迫り来る閃光がスローモーションのように見えるのに、体はまったく動かない。
  毎日通る通学路の風景、今朝もすれ違った黒猫の尻尾の揺れ、近所で出会う個性的な住人たち、雨が落ちる直前の空の匂い、いつも眠くなる窓際の席、風が通り抜ける屋上への階段、廊下を駆けて来る足音、さっきまで一緒だった1−3の仲間の顔       の毎日を構成する他愛のない、けれどタイセツなものが脳裏に浮かんだ      .











  これが噂の走馬灯ってやつ?
  だとしたら、僕の、の明日は来ないらしい。
  そう思ったら       急に目頭が熱くなった。
  ヤバイ、スッゲー似合わない状況だよ?! 自分、何、泣いてんのさ??
        イヤだ!! まだ死にたくない!!!
  諦めたくなんかない、諦めることなんかできるわけ、ない!!
  明日も、明後日も、今日と同じ日が続いていく。そうじゃなきゃ、嫌だ! 嫌なんだ!!
  屋上の日だまりで、またチャドと、なんでもない話をして、どうでもいい話をして、そんな小さなことに幸せを感じて・・・・・・あ       そうなんだ、やっぱり、僕はチャドのことが好きだったんだ・・・いまさら確信するなんて、バカじゃねぇ? 自分のアホさ加減に笑いが溢れてくる・・・って、何で涙まで一緒?
  チャドのこと好きだったんだ・・・・・・だったら、尚更こんなところで死ねないよ!
  まだ、何も伝えていないんだから。
  まだ、何も始まっていないんだから。
  死にたくない! 死にたくなんかない!!
  その瞬間、のなかで光が弾けた     .





















  気付いた時、目の前にいたはずの巨大な塊は跡形も無く消えていた。
  何がどうなったのか分からない。
  最後の記憶は、目の前に迫る閃光と、死にたくないと本気で思ったことと      やっと自覚した恋心・・・・・・うわっ、マジで明日からどうやって接すんのさ・・・
  「あーもう・・・・・・何だってのさ?」
  そのまま仰向けに倒れこんで目を閉じる。
  今は、何が起きたかなんて興味なかった。
  ただ、ただ、明日がまた来る、その事実が嬉しかった。
  「・・・・・・ってか、寝たら死ぬって・・・イテテテ、重傷じゃん」
  傷を負った左足を引き寄せて、右肩に手をやる。やっぱり、掌にはべったりと赤い血が付いていて。
  「・・・・・・黒崎医院で治る、よね?」
  傷の痛みは相変わらずだったけど、生きてる、明日がむかえられる(多分)       それだけで、随分気が楽になるものらしい。
  人間って単純だ。ま、だからこそ生きていけるのかも知れないけど。
  「・・・・・・病院まで、どうやって行こう?」
  人通りの少ない河川敷、とりあえず止血だけして、誰か通りかかるのを待つか      .
  「誰も通らなかったらどうしよう・・・」
  自分の怪我を再認識して、は唸って空を仰いだ。











     46音で恋のお題より「想いを告げるより先に」
 告げる術を持っているのに、いつも僕らは告げるべき真実を見失う・・・・・・

Photo by 塵抹

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