張維新(チャン・ウァイサン)、あなたは私に約束をした。
だから、その約束があるから、私は今、ここにいる。
Goat , Jihad , Rock'N Roll PT.begin (Convenient Love)
「・・・というわけで、俺は尻をローストされかけて、ここに来る羽目になったわけだ。まったく不愉快な話だよ」
何を暢気なことを 張大哥(チャン・タイコウ)の背中を眺めながら、内心で毒づく。
ローストされかけたなんて言い回しでは足りない。体ごとポップコーンになるところだったんだ。よくもまぁ、そんな悠長なことを言っていられる だからこそ、張維新(チャン・ウァイサン)なんだけど。
は苛々と後ろで手を組み替えた。伏せていた瞳をあげれば、張(チャン)の話を聞いている4人の人物 黒人(タフガイ)、眼鏡(インテリ)、二挺銃使い(ガンスリンガー)、商社マン(ホワイトカラー)・・・場違いなのが一人いるけど? が目に入る。
張大哥は随分このラグーン商会を高く買っているようで、今回の件もこの面子に咬ませるようだ。
一言、依頼してくれれば、私が全部やるのに だが、残念ながら、張大哥はに依頼する気はないらしい。確かに、"暗殺者"よりは"運び屋"の得意分野(テリトリー)かも知れないが、それでもの不満は収まらない。
シェンホアは出張ってるのに、ズルイ そう主張してみても、きっとこの男は飄々と肩を竦めての不平を駄々に変えてしまうのだ。
いつだって、文句を言って通じた試しがない 口が回るのは、普通女じゃない? 苛々と視線をめぐらせば、剣呑な瞳とぶつかった。出来るだけ自然にみえるように意識しながら、その瞳を睨み返す。
二挺の拳銃をぶら下げてるアジア系の女・・・多分、中国人(チャイニーズ)だ。アーモンド形の目が、鋭くを睨んでいる。
面倒。
それがの、その女に対する全てだった。
こういう手合いは面倒だ。力を揮うことに躊躇いがなく、さらに同類の匂いにも敏感 それこそ、関わりあったら面倒以外の何者でもない。
・・・いつかの殺戮メイドの方が、まだマシか・・・・・・それだけ胸があれば、張大哥も、私を子供扱いしないかなぁ? にそんなことを思われているとは想像すらしていないレヴィが、不満げに咥えていた煙草を離し、何か口を開こうとした。
その先に、何かに気付いたが張の背後に近寄る。
気を削がされたレヴィは、息を吐いた 息を詰めてた? このアタシが!?
そのことに驚きながら、レヴィは何の気なしに窓の外を窺って息を呑んだ。そして、叫んだ。
「・・・・・・・・・ッ、ア、RPGッ!!!」
今まさに自分たちがいるこのラグーン商会のオフィスに向って突っ込んでくる爆弾に、叫んだレヴィはもちろん、オフィスにいた面々はすぐに身を伏せて対応した。
派手な轟音とともに、オフィスに瓦礫が散乱する。
「・・・・・・やれやれ早いな、もう来たか」
その瓦礫のなかから、張が立ち上がった。綺麗に撫でつけられていた艶髪は、さすがに解れていたが、飄逸さはそのままで、今も取り出した煙草を咥えようとしている。
「大哥(アニキ)!御無事で!?」
部下たちからかけられる声に、張は片手を挙げて応えた。
部下たちが瓦礫のなかから立ち上がった頃には、すでには張の背中を離れている。レヴィが声を上げるよりも先に、襲撃に気付いたは、張を真っ先に押し倒していた。
背中を離れていく手を引きとめようかと一瞬思い、そして止めた 相当怒ってたからな・・・まぁ、問題ないか。
「・・・・・・水漏れがひでぇぜ、張さん。この話はキャンセルだ」
張の背に、ダッチが声をかけた。そんなこと本気で言っているわけではないだろうと知っているから、張も混ぜっ返すように答えた。
「降りるか? ここの修理は自腹になるぞ?」
言いながら、の姿を探す いた。出口付近、既に臨戦態勢。止めることは不可能。こっちがキケンだ。
張は腰の後ろへ手を伸ばす。双子の一件の反省から持ち歩くようにした、自分の愛銃"天帝双竜(ティンダイシェンロン)"を抜き出した。
「そこまで見送ろう。非常口は?」
「案内するよ、張の旦那」
「ああ、よろしく頼む」
凶悪な笑みを浮かべながらレヴィが答えた。
こっちも導火線に火が点いてるな レヴィを冷静に観察しながら、張は煙草に火を点けた。
こういったことに関して勘の鋭いレヴィが、ずっとを気にしていたことには気付いていた。仕方ないとも思っていた。
出口の扉に張り付いて既に戦闘態勢のに近づきながら、張は改めてその姿を眺める。
双子の一件以来、とりあえずには自分の目の届くところにいてもらうことにした。だから今のは他の三合会の構成員と変わらない黒服姿だ。
それでも、その背中に張り付いている死神を嗅ぎ付ける人間はいるようで 現に今のレヴィがそれだ。
ネコにマタタビ、政治家に金、拳銃使いに火薬の匂い 黒服の中に紛れ込ませてみても、その手の人間の目を惹きつけてしまう。
初めて会ったとき、もしかして俺もそれに惹きつけられたのか 煙草の煙を燻らせながら、張は過去を思い出そうとした。
暗闇、血の臭い、鎖の音 そして、凍るような殺気を放った瞳 それらを思い出して、張は苦笑を浮かべた。
場違いな気配に、が目だけ動かして張を見た。張は肩を竦めてその視線に答える も随分、可愛くなったもんだ 強烈すぎるそれらの記憶にまぎれて、そのとき何を言ったかは思い出せない。が、多分自分はくだらない軽口を叩いたのだろう・・・・・・
「行くぜ、旦那」
自分のセリフを思い出す前に、レヴィが声をかけてきた。扉の向こうからは、複数の足音が荒々しく近づいてくる。
張とレヴィが、扉を蹴破るとともに四挺の拳銃が火を噴いた。レヴィの"ソード・カトラス"と同じく、二挺揃えの張の愛銃"天帝双竜"が咆哮するなか、二人の足元を影がすり抜けていく。
「なっ?!」
それに驚いたレヴィの銃口が下がる前に、張がレヴィに背中を任せる。
レヴィの弾丸は、張の背後を取ろうとしていた男の体へと吸い込まれる。そこにいた男たちに鉛玉をぶち込みながら、レヴィは張の方を振り返った。
張が放つ弾丸がどこを飛んでいるか分かるかのように、影は突き進み、襲撃者の前で床と水平に腕を振った。その影に照準を合わせる間もなく、男の体が崩れる。まるで、その影自体が張の放った一発だったかのように 影は崩れた男に向って再度腕を振って、さらに別の男に向う。
張の"天帝双竜"も、まるで影が次にどう動くのか知っているかのように、他の男たちに鉛玉の嵐を浴びせている。猛然と咆哮する銃声の四重奏のなかで、影はまるでダンスでも踊っているかのようだった。
「・・・げっ!!?手榴弾っ・・・!!!」
レヴィが、投げ込まれた手榴弾に声をあげる。しかし、張は浮かべる笑みを濃くして前へ進み出た。
「あせるなよ、二挺拳銃(トゥーハンド)。こういうのは、な・・・」
投げ込まれた手榴弾を、まるでサッカーボールのように止め、張は笑った。
「・・・ビビッたら、負けだ」
張に蹴り上げられた手榴弾は、投げ込んだ襲撃者たちの方へ向い、そして爆発した。
「・・・な?」
思わず身を屈めていたレヴィは、爆発の前で笑みを浮かべる張の隣に、いつの間にか影が戻ってきていることに気付いた。
レヴィは、影の正体をはっきりと見た。爆風を受けながら、張の隣に何も臆することなどないかのように立つその人物 先ほど自分にガンをくれていた生意気そうなガキ いや、ガキなんかじゃない。こいつは、"殺し屋"だ!
すべてを凍らせるような、殺気すら可愛いと思える絶対零度の視線 レヴィの背中がゾクっと冷える。
ガキだと思っていた自分の能天気さを笑いたくなる。血の伝うナイフを下げたその姿に、レヴィは言い知れない恐怖を覚えた。
「やれやれ、たまにゃ命のかからねぇ仕事がしてぇ」
一時的に静かになった廊下に、張の部下たちに守られながらラグーン商会の面々が顔を出した。ダッチのぼやきに張が肩を竦める。
「ぼやくなダッチ、ここは俺たちが面倒を負うところだ。車を回した、こいつで埠頭へ行け」
ロックに促されて、レヴィも腰を上げた。もう一度振り返れば、先ほどまで張の傍らにいた女は既に距離をとり、次の襲撃に備えている。
レヴィは、その背中を睨み、ロックとともに車へと向った。そんなレヴィを見て、ダッチが張の隣で足を止めた。
「あれが、旦那の狼かい?」
「いい女だろ?」
そう言って唇の端をあげた張に、ダッチが溜息を吐いた。
「・・・・・・普段はボディーガードで、ベットでは女・・・しかも、裏では暗殺者・・・都合良すぎるんじゃないか?」
ダッチの言葉に、張は笑い声をあげた。
「まさに理想だろう?」
張の言葉に、ダッチは深く溜息を吐いた 俺はゴメンだ・・・いつ寝首をかかれるか、分かったもんじゃねぇ。
「・・・・・・後は任せたぜ、張さん」
自分の思いをレイバンのサングラスの影に秘め隠し、必要最低限の言葉を残し、ダッチも車へと踵を返した。
「」
その背中を見送らず、張は声をかけた。呼ばれた当人は、微かに振り向いただけで、意識は建物の外へ集中している。
「煩い見物人は行ったぞ。後は、好きなように踊れ。俺も付き合うぜ?」
再び慌しく近づいてくる複数の足音を前に、僅かにの頬が緩んだように見えた。
その命、俺に預けてみないか?
俺は"暗殺者・黒狼"よりも、、お前自身に興味が湧いた
約束してやる・・・俺はそう簡単には死なん。見届ける気はないか?
46音で恋のお題「都合のいい恋愛」より
あなたの隣なら、どんな地獄も怖くない。喜びさえ感じてる・・・・・・
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