未来など語らない       だって、それはいつも裏切られるものだから。
  夢など見ない       だって、それはいつも悪夢でしかないから。
  希望など持たない       だって、今以上なんて望めないから。











   Always Flying Together











  「あいや・・・まだ寝てたね。、起きるよろしね」
  「〜〜〜ん・・・・・・」
  「寝汚い、嫌いなるですよ」
  とりあえず、一声かけてみたが、ベッドの上の主は起きる気配がまったくない。
  シェンホアは、溜息を一つ吐いて、シーツを勢いよく剥ぎ取った。
  「〜〜ぃっ!?」
  「早く起きるね」
  弾みで転がり落ちたが呻くが、シェンホアは気にせずその背中に丸めたシーツを投げつけた。
  「〜〜〜〜〜〜」
  「まだ寝るですか? いい加減しないと、無理矢理もう一組、目、作るですだよ」
  シェンホアの言葉に、がふらふらと立ち上がり、流し台兼洗面所へと向う。
  その背中を見送りながら、シェンホアは思わず呟いた。
  「・・・・・・・・・とても"黒狼"思わないね」
  "黒狼"       最近では、以前ほど名前を聞かなくなってはいるが、その名前に恐怖する人間は多い。
  一時期は、一晩で組織をひとつ潰したとか、マシンガンと対峙してその弾丸をすべて切ったとか、そんな都市伝説になるような華々しい活躍をしていたのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが       それにしても、この姿は問題ね・・・・・・
  すっかり高く昇っている太陽に、眩しそう目をこするを見ながら、シェンホアはもう一度溜息を吐いた。
  すっかり大人しくなった印象が強い"黒狼"だが、今でも現役だ。今だって、以前よりは控えめになったとはいえ、仕事をしていないわけではないのだから・・・・・・自分も含め、"黒狼"のこんな姿をみたら、その名前に脅えていた者が馬鹿みたいだ。
  生暖かく見守るシェンホアの前に、顔を洗ったが戻ってきた。相変わらず眠そうに目を瞬きながら、大きな欠伸をして、ベッドの上に座り込む。
  が塒にしている部屋は狭い。大きくもないベッドが部屋のほとんどを占領しており、必然的にベッドの上しか居場所がない。シェンホアも、いつものようにそのベッドに腰掛けた。
  「もう少し、自覚もった方がいいね、。暗殺者、見えないね」
  「・・・・・・普段から、そう見えてたら大変・・・」
  欠伸をしながらそう返したに、それもそうだ、と頷きそうになった。それが気に入らなくて、シェンホアは眉を寄せて言葉を続ける。
  「・・・可愛ないね。寝汚いのに、寝起き悪いないね・・・」
  「・・・・・・褒めてる?」
  「・・・それより、もっと早く起きるよろしいね・・・いつも起こす、私のこと考えるですね」
  そう言って腕を組むシェンホアに、はぺこりと頭を下げた。
  「シェンホアには、感謝してます。謝謝」
  「せめて、携帯ぐらい持つあるね。そしたら、私いつも起こしに来る必要ないね」
  「アレ、要らない」
  そう言って、は僅かに頬を膨らませた。
  「違うね。要る、ね」
  「要らない」
  「分かるないね・・・、パソコン得意ですのに、何故、携帯キライか?」
  そう問いかけるも、は答える気がないらしく、不貞腐れたようにシェンホアを見つめるだけだ。
  携帯を持たないだが、機械が不得意とかいう理由ではないようだ。いつだったか、シェンホアの所有するパソコンが壊れたとき、街角でタダ同然で売られているスクラップ機材を使って、以前の仕様以上に直してみせたのだから。
  では、が携帯をもたない理由は何なのか       聞き出そうにも、一度話さないと決めたの口が戦車より重いことは、今までの付き合いで十分理解しているシェンホアは、もう一度深く溜息を吐いた。
  「・・・どうして、こんな可愛ない娘、張(チャン)の旦那が好きなったか分からないですだよ」
  「・・・それは、私も分からない」
  首を傾げるにシェンホアが声をあげた。
  「分からないあるか? 驚くね!! 当の本人、分からない、他の人、分かるないね」
  の言葉に、シェンホアは呆れたように笑みをこぼす。
  「張の旦那が双子に襲われましたとき、我慢出来ず飛び出したですのに!? そんなに、張の旦那のこと好きです、にも分からないね?!」
  「好き? ・・・それもよく分からない」
  「・・・・・・はい? 私、のこと、よく分からないですね。、張の旦那のこと、好き違うですか?」
  「あの時、飛び出したのは・・・・・・」
  シェンホアの言葉に、が呟いた。
  「張大哥(チャン・タイコウ)が私の全てだから」
  「・・・・・・・・・訊いた私が馬鹿ですだよ。もう、勝手にするよろしね・・・」
  の言葉に天を仰いだシェンホアだったが、は構わず、さらに首を傾げた。
  「・・・"好き"ってどういうこと?」
  「?」
  「・・・よく分からない。シェンホア、"好き"ってどういうこと?」
  の問いに、シェンホアが唸る。英語の語彙が乏しいシェンホアの答えは、これが精一杯だった。
  「・・・・・・・・・"好き"は"必要"ね」
  分かった、とが頷いた。
  「じゃぁ、シェンホアは携帯が"好き"なんだ」
  「違うね!!何、とぼけるですか?!自分に"必要な人間"ね」
  なるほど、とが大きく頷いた。
  「じゃぁ、シェンホアにとってのレガーチだ」
  「・・・・・・・・・どうして、ヤク中(ジャンキー)の腐れ(ファッキン)アイリッシュの名前出るね?」
  「『レガーチの運転は信用できる、仕事には必要だ』って言ってたから」
  の言葉に、シェンホアはがっくりと肩を落とした。何か、凄く、とても・・・疲れていた。
  「・・・・・・在天願作比翼鳥、在地願為連理枝・・・・・・」
  「?」
  「・・・・・・"死んでも一緒にいたい人"ね」
  中国語の分からないに、そう訳した。
  だが、シェンホアの説明に、は首を振った。
  「だったら、張大哥は違う。張大哥は死んだりしないから」
  の言葉に、シェンホアは説明を諦めた。
        無理だ。この娘に、私の語彙力では伝えられない。
  すっかり疲れ果てたシェンホアの前で、は自分の言葉に頷いている。
  「張大哥は死なない・・・維新(ウァイサン)が死ぬことはない・・・・・・だって、維新を害するものは、私が全て消すもの・・・」
  の、張の旦那への執着は異常ね・・・張の旦那の方が惚れてるのかと思ってたけど・・・・・・そうでもなかったみたい       そう思っていたシェンホアの携帯が振動した。慌てて取り出すと、相手は       シェンホアは天を仰いだ。
  「・・・・・・忘れてたね・・・私、起こしに来た、張の旦那に言われたね・・・」
  恐る恐る携帯を耳に当てたシェンホアの鼓膜を、渋さを含んだ男の声が震わせた。
  【いつまで待たせるつもりだ、シェンホア・・・俺を肺ガンにでもする気か?】
  灰皿に積まれた煙草の山が見えそうな張の言葉に、シェンホアは慌てて言い繕った。
  「対不起。正解説"長恨歌"的"比翼的鳥"的一節、朕絡連到了・・・(申し訳ありません。"長恨歌"の"比翼の鳥"の一節を説明していて、連絡をするのが遅れてしまいました・・・)
  【・・・なら、と代わってくれ】
  笑いを含んだ張の言葉に、胸をなでおろしながら、シェンホアは携帯をに差し出した。
  嫌そうにその携帯とシェンホアの顔とを見比べていただったが、溜息を一つついて、不承不承受け取った。
  【an imaginary pair of male and female birds each with one eye and one wing and always flying together】
  「?」
  突然の張の言葉に、はワケが分からず眉を寄せた。
  まるでその様子が分かるかのように、張が携帯の向こう側で笑う。
  【There wants to be always it together・・・・・・】
  「?!」
  【俺にとっての、、お前だ。とにかく、起きてるなら早く来い。俺はもう、待ちくたびれた】
  そう言って、一方的に電話は切れた。
  虚しく機械音を響かせる携帯をシェンホアに返しながら、が呟いた。
  「・・・・・・かけてくる相手が決まってるなら、要らないだろ・・・」
  「?」
  「・・・いつも傍にいるなら、携帯なんて必要ない・・・」
  「!! ・・・そう思てるなら、さっさと結婚でも何でもするよろしね! そして、一緒に住むですだよ!!」
  叫ぶシェンホアの言葉に、は僅かに笑った。
  これ以上、張を待たせないため、ジャケットに腕を通しながら、がそっと呟いた。
  「・・・・・・・・・それは無理。今以上は望めない」
  「? 何か言ったあるか?」
  「・・・何も。何もないよ、シェンホア」
  そう言って、は唇を歪めて笑ってみせた。











     46音で恋のお題より「比翼の鳥」
 愛してなんて、死んでも一緒だなんて、そんな贅沢望めない・・・・・・

Photo by 塵抹

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