今夜も月が昇る。
いつだったか誰かが言っていた。
赤い月が昇るのは、誰かの血が流されたからだって。
それなら、今夜の月も、真っ赤に見えるのだろうか・・・











   そっと触れた指先











  「お前がフランキー一家を再起不能にしとけばよかったんだ!!」
  「どうしてこんなバカな事になるの?!私たち仲間じゃない!!?」
  さっきからクソコックが五月蝿くて仕方が無い。それ以上に、ナミの声が頭に響く。
  いつもならここで聞こえるはずの声がしない。それがまた調子を狂わせる。
  あいつがいないから今の状況があるわけで、それなら全ては、あいつのせいなのか。
  ウソップがいない。
  それだけでこんなに違う。
  チョッパーが項垂れて帰ってきた。
  「・・・・・・もう、仲間じゃないからって・・・船に帰れって・・・・・・」
  昨日まで仲間だった人間が、今日は敵になる。
  海賊の世界ではそれほど珍しくはない。この海に、有得ないことなんて無いことを俺たちは知っているはずだ。
  頭で理解することと、心が理解することは全くの別物ではあるだろうが・・・・・・
  チョッパーが涙を零し続ける船室で、ナミが悄然としたように呟いた。
  「なんだか、この一味がバラバラになっていくみたい・・・・・・」











  俺は甲板に出た。
  ウソップが示した約束の時間まではまだ間がある。
  月が見えた。心なしか赤く見えるのは何故だろうか。
  視線を月から外す。
  甲板には俺より前から月を見上げているがいた。
  沈黙が気不味くて、俺は口を開いた。
  「・・・お前は言わないのか?」
  「何を?」
  そう返答されるとは思ってなくて、俺は少し戸惑う。
  「・・・・・・バカなことをするな、とか」
  俺の言葉に、は口の端だけを吊り上げて笑った。
  「言っても無駄なことは言わない主義なの」
  そのまま手摺に寄りかかるようにして体ごと振り向いたに対して、俺は腕を組んでマストに寄りかかった。
  「で、ゾロは?『バカなことするな』とは言わないワケ?」
  「・・・・・・言えるかよ」
  は再び笑った。
  色素の薄い銀の髪が揺れ、月明かりを浴びるの笑顔が妖しく見えて、俺の心臓が小さく跳ねた。
  ナミに比べて全体的に細くバストも小さめな筋肉質な体     バスト云々の件はアホコックの談だが     で、口調も性格も女性というものをそれほど感じさせることのないが偶に見せる表情に、何故か俺は目を奪われてしまう。
  理由なんて分からない。そんなもの、ないのかも知れない。
  そうだとしても、俺はの些細な表情を見逃してはいけないような気がしてしまうのだ。
  「・・・・・・決着は、つけなきゃいけないでしょ。例え、それが傷口を広げても・・・」
  は俺から視線を外し、肩を竦めた。
  「・・・ルフィにはいい機会かも知れない。船長なら、一度は通る道かも知れないし・・・」
  そう言っては体を反らせて、月を見上げた。
  「・・・いろんな海賊船乗ってきたけど、こんなに仲良い船は初めてだった」
  「・・・・・・・・・」
  「本当よ?こんなに皆が仲良いのは初めて。楽しいのも・・・・・・」
  「ああ」
  俺はの言葉に頷く。
  「・・・仲が良くても、楽しくても・・・心で違うことを思ってるのなら、それは言って欲しい・・・」
  「・・・・・・・・・」
  「・・・言ってくれれば、何か変えられるかも知れない。傷口を広げても、何か、違ったかもしれない・・・」
  は月を見上げたまま、独り言のように言葉を紡ぐ。
  頷くことも出来ず、俺はただ黙っての言葉を聞いていた。
  ウソップとルフィのことを言っているのか、それとも自身のことを言っているのか、俺には分からなかった。
  俺に分かっていたのは、から目を逸らしてはいけない、ということだけだった。
  「・・・もう手遅れかもしれない・・・このまま、バラバラになってしまうかも知れない・・・」
  「・・・・・・」
  「それでも、馴れ合いのままでいるよりは、きっと・・・・・・」
  「・・・」
  「・・・・・・・・・でも・・・もし、ルフィがツブれてしまうようなら・・・私は・・・」
  「・・・・・・おい」
  「・・・私は、もう・・・耐えられないかも知れない・・・・・・」
  「
  「・・・・・・・・・ごめん」
  言いながら、顔を両手で覆ってしまったが、長く息を吐き出してから、一言囁くように謝罪の言葉を呟いた。
  そのまま沈黙が続く。
  泣いているのだろうか?は顔を覆ったまま、動こうとしない。
  俺も声をかけられず、居心地の悪い沈黙が続いた。
  「・・・・・・・・・ごめん。ちょっと感情的になったみたい」
  もう一度深く長く息を吐いてから、が口を開いた。
  「・・・・・・何かあったのか?」
  「・・・別に・・・・・・」
  が答えるとは思っていなかったが、やはり返事は素っ気のないものだった。
  再度息を吐いて、が顔を覆っていた手を外して、俺のほうへ向き直った。
  「今の、全部忘れて」
  そう言っては笑った。
  涙の痕は、見えなかった。いつもと変わらない、の笑顔のはずだった。
  けれど、さっきと同じように月明かりに照らされたその笑顔は、何故かとても儚く見えた。
  忘れることなんか出来ない。決して、忘れてはいけないと思った。
  の髪が風に揺れる。
  俺は手を伸ばして、の頬にかかった髪に、そっと触れた。
  銀の髪はサラサラと滑り、俺の指の間を落ちていった。
  と絡み合った視線の先にある俺の顔が、不敵に見えるように願いながら唇を吊り上げる。
  「大丈夫だ。ルフィはこれくらいでツブれたりしない、迷ったりしない。だから大丈夫だ」
  は黙って頷いた。











  もうすぐ約束の時間だ。
  すでにルフィはウソップが来るのを待っている。
  甲板にはサンジ、ナミやチョッパーが心配そうに見守っている。
  「・・・見てなくてもいいんだぜ?」
  斜め後ろに立つ気配に言った。
  「見届けるよ。私も・・・・・・今はこの船のクルーなんだから」
  凛としたいつものの声だった。
  視界の端に風に揺れる銀の髪が映った。
  俺は気付かぬうちに軽く微笑んでいた。
  「ウソップだ!」
  チョッパーの声に視線をやれば、真剣な表情のウソップが見えた。
  どちらが勝つにしろ今夜、この船の運命が、俺たちの道が決まる。











赤い月が昇る。
月さえも赤く染めて、私たちはどこへ行くのだろう?
何を求めてるんだろう?
この空の下、独りでたどり着ける場所なんて、限られてるのに・・・・・・











 アトガキ
  あぁぁあぁぁ・・・連載にしてしまいたい・・・出来ることなら・・・
  何も得られず、行き着く先は地獄だけ・・・・・・

Photo by 空色地図

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