「ねぇ、次の大きな港がある島まで、乗せてくれない?悪いけどさ」
それが彼女の第一声だった。
最終手段
「ねぇ、どうするの、剣士さん?乗せてくれるの、くれないの?」
縄でぐるぐるに拘束されたまま、挑戦的な瞳をした銀の髪の女が俺を見上げて再度尋ねた。
「・・・・・・どうするも何も、あんた、こんなとこで縛られてたら、船に乗るもないだろ」
バロックワークスの町、ウィスキーピークで100人近い賞金稼ぎたちの砲撃をよけて、一時的に飛び込んだ家の中で、縄でぐるぐるに拘束された女から頼みごとをされたら、誰だって俺と同じように返答すると思う。
「・・・・・・普通、こういう状況だったら『この縄を解いてくれ』とか、『助けてくれ』とか、言うんじゃないのか?」
俺の言葉を、女は笑い飛ばした。
「私が今困ってるのは、この島から次の島へ行く手段なのよ」
面白いやつだと思った。だから、
「そうか。生憎、俺は船長じゃない。その頼みは船長に言ってくれ」
「そうなんだ・・・で、その船長さんは?」
「腹いっぱいで寝てる」
ルフィだけじゃなく、他のクルーも今は夢の中だ。
「そう・・・・・・船長さんは、頼んだら乗せてくれそう?」
「・・・・・・さあな。あいつの気分次第だ」
「・・・・・・ま、いいか。とりあえず、この島を出ないと話にならないし」
今晩のおかずを決めるような軽いノリで言った女に、俺は少々不安を覚えた。
「・・・・・・言っとくが、バロックワークスからあんたを守るような暇はないからな。新入り達を実践で試すいい機会なんだ」
俺は雪走りと鬼徹に指を滑らせた。「手助けはしないぞ」
「必要なし・・・・・・ほら」
女はあっさり言って、立ち上がった。
縄は女の足元にスルリと落ちていた。
俺は笑みを浮かべた・・・・・・この女、捕まったフリしてやがった。
何を考えてるのか知らないが、面白いやつだと思った。
「名は?」
一応聞いておこうと思った。確認の意味も込めて。
バロックワークスの仲間なら、コードネームで呼び合っているはず。ナンバー某とかミスター某とか。
女は埃を払っていた手を止めた。
最初と同じ挑戦的な瞳が俺を突き刺す。それから、ゆっくりと口元に笑みを刻んだ。
「」
「俺はゾロ。あんたが何者かは知らないが、手助けはしない。船に乗りたかったら、勝手に港まで来い」
の笑みが深くなる。
「OK、ゾロ。手出し無用、干渉するな、勝手にしろ、ってことね」
「物分りのいい女で助かる。あいつらは俺の獲物だ」
「はいはい」
この余裕 このって女、もしかすると腕に相当の自信があるのかも知れない。そう考えた直後、
「さて。頑張って逃〜げよっと」
が、ストレッチをしながら呟いた。
「・・・・・・・・・おい」 「ん?何??」
「・・・逃げるって、お前戦わないのか?」
「うん」 「何でだっ!!」
しっかり頷いたに俺は思いっきりツッコミを入れていた。
まさか、そう言うとは思っていなかった。
「いたぞっ!!」
怒声とともに扉が開き、バロックワークスの賞金稼ぎが現れた。
俺は舌打ちをした。これで、この変なって女を問い詰めることが出来なくなってしまった。
相手が銃を構えるより早く雪走りを横に払った。倒れる男の肩越しに、賞金稼ぎたちが集まってくるのが見えた。
「ゾロの獲物なんでしょ、あれ全部。私は手出ししないから、よろしく!」
は俺に向って「じゃぁ!!」と手を上げると、窓の外へと身を躍らせた。
「おい!?お前っ!!!」
俺の声も虚しく、はウィスキーピークの街へ消えていった。
「ん〜、疲れた。じっと座ってるのは、私のガラじゃないからなぁ」
人気のないウィスキーピークの路地を歩きながら、思いっきり腕を伸ばして、は呟いた。
「さっきのゾロって人、刀三本も持ってたけど・・・・・・もう一本、どこかに腕が生えてるのかしら?」
絶え間なく響いていた破壊音も、今は断続的に聞こえてくるだけだ。はもう一度ぐ〜っと伸びをした。
「ま、ゾロ強そうだったし?そんなに待たされないで済みそう・・・」
そのまま首と肩の凝りをほぐすように回す。
「都合よく船も見つかって、本当にラッキー・・・・・・」
は唐突に足を止めた。
「マズイ!!私の荷物っ!」
音を立てるほどの勢いで後ろを振り返り、は来た道を走り出した。
「ったく、何で忘れるかなぁ、大事なものを・・・」
走りながら、溜息がこぼれてしまう。いつもは肌身離さず持っているのだが、今回は手元にあるよりも安全だと考えて、捕まる直前に船の積荷の中に押し込んだのが間違いだったらしい。
運良く、グランドラインに入る海賊船を見つけて乗せてもらった、そこまでは良かったのだが。
最初の島、ウィスキーピークであっさりと賞金稼ぎに捕まった海賊たちの中で、が一番懸賞金が高かった。
そんな馬鹿な・・・と思っているをさっさと賞金稼ぎどもに差し出して、当の海賊どもはさっさとこの島をオサラバしたらしい・・・・・・無事に出て行けたとは思っていないけれども。
だから、次に海賊船を選ぶときには、もう少し懸賞金の高そうなやつらを・・・・・・
せめて、この島から無事に出て行けるくらい強いやつらを・・・・・・と思っていたのだ。
そこに現れたのが、先ほどのゾロという男。
懸賞金の額は知らないが、なかなか腕は立ちそうだった。
あれで船長でないのなら、おそらくあの一味は無事にこの島を抜け出せるだろう。
そう考えていたのに・・・・・・この機会を逃したら、次はいつこの島を出られるか分からない。
この機会を絶対無駄には出来ない!
決意も新に、走るスピードを上げた・・・・・・だったが、何かに蹴躓いて、思いっきり地面にダイブを決めていた。
「〜っぅ、痛・・・・・・」
スピードが出ていたため、かなりの距離を吹っ飛んだは、赤くなった顔面をさすりながら、足を引っ掛けた何かを見るために振り返った。
「・・・・・・ビックリ仰天人間大会実施中?」
ある意味不気味な、でもどこか滑稽な。
振り返った先には、地面から首だけ生やした人間が何人か。
ていうか、人間?人として有得ないでしょ?人って地面から生えてくるものだったけ?首じゃなくて脚が生えてるのもあるし・・・・・・あぁ!生えてるんじゃなくて、埋まってるのか!!納得。本当、こんなとこに埋まってるなんて、なんて非常識な。おかげで蹴躓いちゃったじゃない!!
「うぅぅ・・・・・・」
が足を引っ掛けたらしい男が顔を腫らして、呻いた。
とりあえず、動けないらしい男の隣に正座で座ってみる。
「とりあえず、足引っ掛けてゴメンナサイ。でも、埋まってるあんたも悪い」
とりあえず、頭を下げて謝ってみた。男が何か言いかけたので、耳を寄せてみる。
「うぅ、助けて・・・・・・」
「・・・無理。今忙しい」
"許す"という言葉を期待したのに、返ってきたのは面倒そうな頼みごとだったので、は容赦なく切り捨てた。
「頼む・・・!助けてくれぇ・・・」
繰り返されて、は溜息を吐いた。
自分を捕まえた賞金稼ぎの一人だ。助ける義理もないのだが・・・・・・は地面に埋まったままの男を覗き込んだ。
「・・・教えて欲しいことがあるの」
「?」
「三日前に捕まえた海賊船の積荷に、エターナルポース、あったはずなんだけど?」
「あぁ・・・確かに、あった・・・・・・どこを指しているのか、不明な 」
「壊してないでしょうね?」
月明かりに照らされたの真剣な顔に、男は冷や汗を掻きながら大きく何度も頷いた。
「OK、いいわ。助けてあげる」
の言葉に、男は止めていた息を吐き出した。
「・・・ただし、あなた一人だけ。助かったら、まず、私にエターナルポースを返すこと。
それから、他の仲間は、あなたが助けなさい・・・・・・幸運にも、急を要する怪我人はいないみたいだし・・・」
男は、の言葉にただただ頷く。
「・・・・・・あぁ、ダメね・・・視界に入っちゃった・・・・・・あそこの、頭ごと埋まってる男も、助けてあげるわ・・・」
はそう言って、大きく溜息を吐いた。
結局、見捨てていけないのが、自分の良いところでもあり、弱点でもあることは良く分かっている。
こんなことをしてたら、船の出港に間に合わないかもしれない・・・
頭の片隅で、そんなことを考えて、はもう一度、溜息を吐いた。
「・・・仕方ない。もし、間に合わなかったら、あなたたちに責任とって貰うから」
そう呟いて、は男を掘り出すべく行動を開始した。
結局、男を助け出し、エターナルポースを取り戻したが港に来たときには、海賊船は影も形もなく。
水平線で燃える真っ赤な炎を見ながら、は呟いた。
「・・・仕方ない・・・・・・最終手段よ。あなたたち、全員助けてあげるから、私を次の島まで送りなさい」
「えっ・・・!?」
「次の島へのログポースは?」
「確か、リトルガーデン・・・・・・Mr.8がいくつか持っていたと・・・」
「じゃぁ、問題ないわね」
「えっとぉ・・・・・・」
「何?」
「・・・・・・いぇ、何デモナイデス・・・」
どうして俺がそんなことまで・・・
男の思いは、の一睨みで口に出ることはなかった。
言えるわけない。言ったら殺される・・・!!
それが、月明かりに照らされたの瞳に浮かぶ冷たい光を直視した、男の偽りなき本心だった。
アトガキ
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