Episode.-3 〜Song〜
かの独裁者は彼らを忌みて
砂と枯野の惑星に追いやった
惑星へ住く囚人たち 荒地を耕し麦を植え
しかして神があらわれる
大地はすべて神のもの 麦は神への捧げもの .
「いい歌ね」
「そうでしょ、セツリも一緒に歌わない?」
最近(といっても、それは不死人の時間の"最近"だから、もう3年ほどの付き合いになるかもしれない)できた友達を、後ろへ倒れこむようにして逆さまに見上げて言った。
セツリは笑っての隣に腰を下ろした。
「聖歌の替え歌でしょ、その歌・・・、よく歌ってるけど、教会兵に見つかっちゃったら、危ないんじゃないの?・・・・・・の場合とくに」
「唄いながら死ねるなら本望かなぁ」
台詞の内容ほどの真剣な様子はなく、セツリは共犯して悪戯を企てる少女のように笑っていたから、も本気だか冗談だか分からない台詞を呟いた。
それから二人で黙って、ガスに霞む巨大な二本の塔と真っ黒のノイズが漂う砂色の空を黙って眺めた。
「・・・・・・結婚しようかなぁ」
「・・・そしたら、セツリ、今までみたいに遊んでくれなくなるなる?」
「そうかも」
「だったら、断固反対」
それからまた二人黙って、黒いノイズを追った。それは首都全体を覆うかのように、少しずつ広がろうとしているような錯覚を覚えさせる。
(首都っていつ見ても、あんまりいい感じしないよなぁ・・・)
ぼんやりとそんなことを思っていた。
「 惑星へ往く囚人たち 荒地を耕し麦を植え あぁあ、のせいで、この歌覚えちゃったわ」
「いい歌だからね」
いつの間にか本当に覚えてしまっていたらしく、歌を口ずさんでいたセツリに、自然と笑いが浮かんでしまった。
(ま、いいか。そろそろ待つのにも厭きてきたし・・・セツリともこれでお別れかなぁ・・・)
さよならを口に出して伝えようかと思ったけど、何だかそれは恥ずかしい気がしたから、やっぱり黙っておくことにした。
「ねぇ、この歌、は何処で覚えたの?」
「何処で覚えたんだったかなぁ・・・・・・メロディは、聖歌だから・・・何処で覚えたのかなぁ?歌詞はね、あたしが勝手に作ったの」
「が作ったんだ・・・・・・あ!もしかして、この歌詞の"囚人"って、前話してくれた不死人の 」
「さぁ、誰のことだったかなぁ・・・・・・昔過ぎて、忘れちゃった」
そう言って、笑っておいた。
セツリも、の隣で微笑むと、また二本の塔 大聖堂の鐘楼の方を見ながら、歌を口ずさみ始めた。すっかり覚えてしまったらしい。
は二本の塔のもう一本 この首都にエネルギーを供給する動力塔の方を何となく眺めながら、ポケットから煙草を取り出した。
火をつけて吸い込むと、とても懐かしい匂いがした。
煙草は好きじゃないし、美味しいとも思わないけど、この匂いに包まれていると、遠い昔に少しの間だけ一緒にいた、懐かしい人たちが近くにいるような気がして、結局止めるに止められないでいる。
(みんな、ちゃんと生きてるかなぁ・・・・・・)
火をつけた煙草をそのままコンクリートの床に放り投げて、砂色の空を見上げた。隣から聴こえるセツリの歌声に耳を傾ける。
神様、もしいるのなら、ちょっとは反省しやがれ、バーカ!
何だかんだいって、一番神様から遠い自分がしっかり神様を信じてることがおかしくて、は笑って目を閉じた。
アトガキ
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