「カミナだ!カミナが、助けに来てくれた!!」
  狭いトンネルを抜けて走った。誰よりも先に、彼に会いたかったから。
  薄暗い穴を飛び出して、太陽の眩しさが目に付き刺さった。
  その明るさに目が慣れるのを待つ時間さえ勿体なくて、ずっと焦がれていた彼の名を呼んだ。
  「カミナ!!!」
  翳した手の影から、すぐそこにいるはずの彼の姿を捜した。
  「・・・・・・カミナ?」
  「・・・、アニキはもういないんだ」
  いつも彼と一緒にいるシモンがいた。なのに、どうして彼がいないの?
  「アニキは死んだんだ、
  「     嘘、信じない」
  「、アニキは死んだ。もういない」
  真剣なシモンの瞳。その瞳の奥からアタシを見るのは     悲しみ?それとも、哀れみ?
  「そんな嘘、信じないんだからっ!!!」
  全てを拒絶して叫んだ声は、青空に虚しく響いただけだった。











   螺旋を描く恋模様











  「助けが来たわ!!」「獣人たちの支配から逃れられる!!」「やった!自由だっ!!!」
  土の壁を一枚隔てた向こう側で、何人もの人間が歓声を上げて走っていく。
  拘束されたままの腕を動かそうとしてみても、鎖はピクリとも動かない。
  アタシは重たい息を吐き出した。
  馬っ鹿みたい、どんなに喜んでも彼はもういないのに     なんでそんなこと思うんだろう・・・・・・あぁ、そうか。これは夢だからだ。
  アタシが何度も繰り返し見た、夢だからだ。
  最初のうちは、彼が助けに来てくれたんだと思って、アタシも喜んでいたけれど。
  膝を抱えて、小さくうずくまる。足首に絡みついた鎖が、ジャラジャラと鈍い音をたてた。
  何度も繰り返すうちに、彼は来ないと知ってしまった     どうせ夢なら、夢だからこそ、アタシの望みを叶えてくれればいいのに、どうして現実と同じになっちゃうんだろう?
  現実なんて楽しくないのに。
  もう、希望なんてない。
  絶対的絶望。






       なにウジウジしてんだよ、らしくねぇな。






  懐かしい、声が聞こえた気がした。思わず顔をあげた先に、焦がれた彼の姿があった。
  「・・・・・・カミナ、どうして?」






       いつまでこんな地下に閉じこもってる気だ?ったく、獣人ハンターの名が廃るぜ?






  「だって、鎖が・・・」
  呟いて視線を落とせば、腕の鎖がボロボロと崩れていく。足首の鎖も、いつの間にか錆びて簡単に崩れ落ちていた。
  そうか、アタシがアタシをここに閉じ込めていたんだ・・・そんな簡単なことにも気付けずにいたんだ。
  顔を上げれば、満足気にカミナが微笑んでいる。
  最初に会ったときと同じ、カミナの笑顔だ。
  「あのね、アタシ・・・・・・・・・」
  カミナのこと大好きだったよ。
  ずっと待ってたんだから。
  言いたかった言葉は、いっぱいあったはずなのに。
  ただ見つめるだけのアタシの前で、カミナがすっと腕をあげた。






       天井なんて、ぶっ壊しちまえ!!






  天を指したカミナの姿は、カミナシティで見慣れたものだった。
  あぁ。なのに     アタシはいつもこの姿を見ていたのに。
  鬱々と日々を送っていたから、分からなかった。
  下ばかり向いていたから、見えないフリをしてた。
  そうだね、地上に天井なんて、なかったよね。
  どこまでも、青い空が広がってたよね。
  望めば、本当は何処までだっていけるんだよね?
  アタシ、望んでもいいんだよね?
  「・・・・・・アタシ、行かなきゃ・・・だって、こんなの、らしくないもんね?」
  カミナは黙って、笑ってるだけ。
  でも、いいんだ。これはアタシの夢だから。
  夢の中でも、カミナに会えた。ちゃんと向き合えた。
  それでいいんだ。
  「・・・ありがと、カミナ」
  でも     だからこそ。これで最後にするよ。
  もう、カミナの背中は追いかけない。希望のない夢物語は、もう見ない。
  カミナのこと、忘れるなんて無理だけど、もうなぞったりしない。
  だから、伝えたかった言葉たちも、口にしなくて大丈夫だよ。
  アタシの恋が、本当の意味で、今やっと終わった。
  アタシの胸元で、鳴動するように光が瞬いた。
  そっと握りこむようにして、その温かさを感じる。
  コアドリル     アタシたちの希望・・・・・・大丈夫、アタシにも、まだ希望が残ってた。
  穴ぐらの出口から、光が差し込んでいる。
  あの日と同じ、太陽の光だ。
  あの先に、天井のない世界が広がってる。
  口元に、笑みが浮かんだ。
  アタシはカミナに背を向けた。






       行けよ、






  「・・・うん。行ってきます」
  光になって青空の下を飛んでいくをカミナは眩しいものを見るように見送っていた。











  「シモン」
  声とともに画像が開いた。天元突破グレンラガンのコックピットで、シモンは久しぶりにの笑顔を見たと思った。
  昔と同じ、何の迷いもない清清しい笑顔のは久しく見ていなかった。
  「悪かったわ、7年間、いろいろと」
  「・・・・・・・・・」
  「アンチスパイラルをぶっ倒して帰ったら、アタシを一発殴っていいわよ?」
  多元宇宙迷宮の中で、も何かを吹っ切ってきたのだろう。言葉に迷いがない。影がない。
  「もちろん、手加減は必要ないから」
  「・・・分かった」
  「・・・シモン、グーはダメですよ?」
  膝の上で、ニアがシモンに耳打ちした。「ね?」と念を押すニアにシモンは微笑んだ。
  ニアのために、仲間のために、そしてを一発殴るために、なんとしても帰らなくてはならない。
  アンチスパイラルが操るグランゼボーマに対峙して、シモンは再度その思いを強くした。
  「シモン、さっさと片付けちゃうわよ?!」
  「ああ、当然だ。俺を、俺たちを誰だと思っている」
  シモンの言葉に、が、ニアが、仲間たちが頷く。
  「行くぞ、アンチスパイラル!!」











 アトガキ
  映画・螺巌編を観て(あぁ、これでアタシのグレンラガンが終わる・・・)と思ったら、書かずには居られなかった夢。
  この胸の中、何度でも、あなたはアタシに希望をくれる・・・・・・

Photo by 空色地図

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