警鐘
「ラッイト〜、昨日の佐藤教授のノート見せてくんねー?」
講堂を出ようとしたところで、馴れ馴れしく声をかけられた。
「・・・、昨日のうちに言っておいて欲しいな。残念ながら、今日は持ってきてない」
「マジか〜!!昨日のうちって、昨日来てないから、ノート借してって言ってんだけど・・・・・・なら、携帯番号教えとけよ」
脱色を繰り返した白に近い金髪、耳には大量のピアス、が身につけているモノトーンを基調とした服もシルバーのアクセ類も、そのほとんどがブランド品だ。
特に邪険にする必要もないのだが、は大学では目立ちすぎる。悪目立ちしすぎるのだ。月自身は距離を置きたいと思っているのだが、の方はそうでもないらしく、何かと月に付きまとってくる。
「ほれ、ライト。携帯貸せって」
ずいっと目の前に手を差し出されて、月は眉を寄せた。が、は特に気にする様子もない。
「だ、か、ら、携帯!オレの番号登録しとくから、さ?」
「・・・わかった」
渋々、月は携帯を差し出した。他人の目に触れやすい携帯に、見られて困るようなものは何もない。渋った理由は、単純に登録されようとしているのがの番号だからである。
「ふっふ〜ん♪」
変な歌を口ずさみながら、は月の携帯に番号を打ち込んでいく。例え番号を登録しようが、使わなければ登録していないのと何も変わらないと、月は自分を納得させることにした。
先程終わったのが午前中最後の講義だったため、人の波は自然に学食や購買の方に流れていっている。このまま人の波に乗って歩いていくと、今日の昼食はと食べる羽目になるだろう。
それだけは避けたい、と冷静に月は考える。
唯でさえ流河にマークされているのに、必要以上に目立つと一緒に昼食を取っていれば、人目を引いてしまうことは避けられないだろう。
これ以上要らない注目は集めたくない と考えてはいるが、月がを避ける理由は、単に苦手なタイプだからというだけである。月の第六感が警鐘を鳴らしているような気がするのだ。これ以上に近づくな、と。
月の心配をよそに、は慣れた手つきで早々に入力を済ませたらしく、月に携帯を差し出した。返された携帯を確認しようと開き、月は液晶画面を見て眉をしかめた。は楽しそうに自分の携帯に月の番号を登録し始めている。
「誰だ?『』って」
ディスプレイに表示された名前を示して、月が嫌そうに言った。は月の手元を覗き込み、楽しそうに答える。
「もち、オレに決まってんじゃ〜ん☆」
何が楽しいのか月には全く理解できないが、は楽しそうに笑う。
携帯を見つめたまま月は、軽く息をついた。
「何言ってんの?前から、俺のこと『』って呼んで、って言ってたデショ?!」
いや、呼びたくない。呼びたくないから、今だってと呼んでいるんじゃないか!
そんな月の心の声など聞こえるわけもなく、は楽しそうに携帯を弄り続けている。
「・・・・・・僕は携帯のメモリー登録は、フルネームで統一してるんだけど」
「え〜そんなの、つまんねぇじゃん!ニックネームの方が、絶対いいって!!」
「僕は『』と表示されて、の顔は浮かばないぞ」
と話していると、月は宇宙人と会話でもしているような錯覚に陥る。それくらい、は月の感情を置き去りにしたまま話を進めてしまう。
「じゃあ、ライトもオレのこと『』って呼べばいいじゃ〜ん!」
「・・・何故そうなるんだ・・・・・・僕は呼ばないぞ」
「え〜呼んでくれてもいいじゃ〜ん!!」
も不満そうだが、月は自分の方が不満だと言いたくて仕方がない。
月は、これ以上と話しても埒が明かないと割り切り、自分の携帯のメモリーを勝手に変更することにした。
「・・・、フルネームは?」
「え〜変えちゃうの?!!え〜、ええ〜、って呼んでよ〜?!」
「・・・断る。名前は?」
「イ・ヤ・ダ」
これだけフルネームを知られることを拒否されて、月は逆に、何故それほどが嫌がるのか、興味を抱いた。
もしかすると、これも一種の職業病かもしれない。デスノートを使うようになって、人の名に執着が湧いているのかもしれないと月は冷静に自分自身を分析した。
「、どうしてそんなに名前を知られるのを拒むんだ?」
「だって、名前って『呪』じゃん。人間が生まれて最初にかけられる呪い」
「呪?」
「うん。陰陽道のネタだったかな?名前に縛られる、とかそんな感じ?」
「説明になってない」
「え〜っと、ライトの自我は『月』っていう名前によってライトとして存在してる、みたいな?あ〜オレもよく解んね〜」
「・・・・・・」
「う〜んとね・・・『』って呼ばれてるのが、ココに存在しているオレのアイデンティティなのよ。分かる?」
「・・・・・・」
「だ、か、ら、ライトも『』って呼んで?」
「・・・・・・それはイヤだ」
陰陽道では、呪いをかける際に名前と生年月日を必要とする、というのは聞いたことがあった。デスノートを手にするまで、名前が特別重要だなんて月は思っていなかったのだが、どうやらはそれを信じているということか。
簡単に名前を教えては、誰に呪いをかけられるか分からない 現代に生きる人間としては、笑ってしまう話だが、デスノートを使っている月には、あながち笑い飛ばすわけにもいかない。名前が判らなければ、相手を殺すことが出来ないのだから・・・・・・。
「え〜!呼んでくれてもいいじゃん、ライトのケチ!!」
「ケチも何も『』なんて呼べるか」
「ライトの意地悪!」
「名前なんて、調べれば判るんだから、今更隠したって意味ないだろうに・・・」
「だったら、いいじゃん。オレが、ライトに本名教える機会があるまで、『』って呼んでくれてもイイじゃん!」
「・・・・・・」
「どうせ、大学での付き合いなんて、軽いもんだろう?なら、別に本名知らなくったっていいじゃん!!」
確かに、大学生同士の付き合いなんて、表面的なものだと月は考えている。
デスノートを使ってを殺すわけにもいかない。
の死から、月とキラを結びつける人間はいないだろうが、ノートを使って犯罪者でないを殺すという行為は、月自身のキラとしてのプライドが許さない。
のせいでキラの名に傷がつくことは我慢できない。
学食のすぐ近くまで来ていた。月は足を止めて、溜息とともに言った。
「・・・・・・わかった。とりあえず『』と入れておく」
「よっしゃ〜!!じゃぁ、明日ノート持ってきてくれよな?」
「・・・ああ。じゃぁな、」
そう言って背中を向けた月に、が声をかける。
「『』って呼んでよ!・・・あ、ライト、お昼どうすんの?一緒に喰わねぇ?」
「・・・お腹は空いてない。僕は次の教室へ行く。じゃぁな、」
嘘だ。と一緒に昼飯を食べるくらいなら、我慢した方がいいと思ったのだ。
「ふ〜ん・・・・・・ま、いいか。じゃぁ、明日時間あるときに連絡くれよ」
「・・・ああ」
結局、使う羽目になるメモリーのことを考えて、仏頂面でのまま月は教室棟に向かって歩いて行った。
「おもしろいね『夜神月』」
「うん。オレが見つけた」
「ホント、おもしろい人間見つけてラッキーだったね、リューク」
月の後姿が見えなくなるまで見送ってから、がさっきまで姿のなかったリュークに話しかけた。相変わらず、世間話でもするかのような軽い調子だ。
「いいのか?あんたの管轄内だろ?」
リュークの言葉には笑う。
「別にイイんじゃない?『キラ』には関わるなって言われてるし?」
(・・・充分、関わってると思うケド)
「オレだって、偶には遊びたいんだよ、人間で」
「ククク。問題発言だな」
「はんっ!構わないさ、オレだって退屈してんだよ。『キラ』のおかげで景気いいんだから、オレがちょっとくらい遊んだって問題なしデショ?」
「オレは知らないぞ・・・・・・ん?ライトが呼んでる。そろそろ戻る、林檎食べたいし・・・じゃぁな『』」
「おう、またなリューク・・・今度は林檎買っとくよ」
は手を振って、リュークを見送った。月を見送ったときと、変わらない態度で。
アトガキ
不思議系主人公、。
オレの真実、君の真実・・・・・・
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