「マジかよ・・・・・・まずいなぁ、まずいよ、なぁ」
たまたま通りかかった公園で、この辺ではそんなに珍しくもない雑誌の撮影かなにかをやってるらしい人だかりを、何気なく覗き込んで、はその光景に思わず呟いて目を覆った。
ゆっくりと指の隙間から覗いても、変わったのは野次馬の量が増えただけで、は今度こそ溜息を吐いた。
「マジなのかぁ・・・・・・・・・あぁ、つまらん」
視線の先には、黒を基調にした衣装を身にまとった華奢で小柄な少女 .
「いいよ〜ミサミサ!今日のミサミサ最高っ!!」
「ありがとうございます〜、ミサ頑張りますっ!」
売出中のファッションモデル弥海砂のツインテールがぴょこんと元気に跳ね、の肩が下がる。
「書類溜まってるみたいだしなぁ・・・肩入れし過ぎとかも言われてるみたいだし・・・・・・もうそろそろ限界かなぁ」
弥海砂がポーズを決める度に、フラッシュが光る度に、野次馬から歓声が上がる度に、の肩が下がり、首が前に萎れていく。空が落ちるようなため息を吐き出して、は丸まった背中をゆっくりと起こした。
「つまんねぇなぁ、マジつまんねぇ。でも、バレんのはまずいしなぁ・・・」
海砂の視線が自分の方にに向く前に、は首を竦めて踵を返した。なるべく目立たないように。
「あぁぁ・・・・・・レムまでいるし、なぁ」
ぼっそっと呟いた言葉は、幸い野次馬の黄色い歓声に紛れて誰の耳にも届かなかった。
ハイリスクなキス
「りゅ〜りゅ〜!」
背後から響いた声に振り返れば、この場所では悪目立ちしすぎる彼が駆け寄ってきた。
そのまま、竜崎の肩にもたれかかるように、馴れ馴れしく体重を預けてくる。
「・・・・・・重いです、くん」
「って呼んでって言ったじゃん!」
「・・・・・・重たいです、」
「ヒドイ!オレそんなに重くないもん!」
「くん、そんなに引っ付かれると歩き辛いです」
「だから、!!」
「・・・・・・、本当に重たいです」
「えへへへ。ごめんね、りゅ〜りゅ〜」
照れたように笑った彼が、竜崎の肩から体を起こす。でも、肩にまわされた手はそのままで、竜崎は気にしないようにと自分に言い聞かせた。あくまでも今の自分は世界で活躍するLではなく、キラを捜査している竜崎でもなく、大学生の流河早樹だ。
一通り笑い終わったらしいは、覗き込むように改めて竜崎に顔を寄せた。
「でも、俺、りゅ〜りゅ〜のこと、大〜好きだから」
「?・・・・・・っ?!!」
覗き込んだの唇が、自分のものをかすめていった気がして、竜崎はがばっと体を勢いよく起こした。耳まで真っ赤になっていることだろう。
そんな竜崎をは口元に笑みを刻んだまま、感情の読めない瞳で見つめてくる。触れている部分から竜崎の体温が上昇したことも気付いているはずなのに、その目はまるで冷たいガラス玉のようだと思った。感情を読み取らせない、もしかすると感情なんて存在していないのか、そんな冷たい瞳だと、竜崎はぼんやりとそう思った。はふっと竜崎から視線を外した。
「信じてくんないんだ、よね?」
「・・・・・・」
どこか悲しそうに呟いたに、その通りです、と何故返せないのか。の前では、何故かいつもの自分に成りきれないことも、彼を邪険にできない理由の一つかもしれない。
「あ〜、でも、仕方ないか・・・それでも、りゅ〜りゅ〜のこと好きな俺って、悲劇のヒローっぽくてカッコいい!?」
悲しそうに呟いたかと思ったら、すぐに楽しそうに笑って、竜崎の肩にまわした手を引き寄せる。
ああ、ついていけない。
それでも、そのうち言わなければならないだろう。そんな恥ずかしい呼び方をしないでくれ、と。しかし、自分がそれを口に出来る日はくるのだろうか?このままだと一生訪れないような気がする。
見上げた空にまで見放されているような気がして、竜崎は心の中で全身の息を使い果たすようなため息をついたのだった。
異様な二人組が歩いてきて、月は思わず目をやってしまった。
周りの人間も、チラチラと視線を送っている。
それはそうだろう。
単品でも、明らかにこの大学では浮きまくりの竜崎とが一緒に、それも肩なんか組みながら歩いていたら、たとえ二人を初めて目にする人間だって視線を送らずにはいられないだろう。何でもない素振を装っている奴らも、まったく視線がいかないことから、逆に気にしてしまっているのが分かる。
ヴィジュアル的に浮きまくっている方がライトを見つけ、嬉しそうに唇を吊り上げ、隣にいる根暗そうな方を引きずるように引っ張って、近づいてくる。
思いっきり他人の振りをしたい。もしくは今すぐ背を向けて走り去りたい。
「ラ、ッイト〜」
そんな月の内心の葛藤を無視して、が名前を叫んで存在をアピールしながら近づいてきた。この状況では腹を括るしかないだろう。そう考えが収まりつくと同時に、肩にずっしりとかかった重みに、月は溜息を吐いた。
「ライト、何処で遊んでたのさ〜?」
月はもう一度溜息をついた。この男の前で、自分が溜息をつかないことがあっただろうか、と月は思いをめぐらした。結果、自分が覚えている限りでそれは思い出せず、月はの前で、眉間にしわがよってしまう自分を再度自覚した。
そんな月にはお構いなく、は月の肩に体重を預け、馴れ馴れしく話しかけてくる。
「ライトが遊んでくれない間にさ、オレ、生アイドル見ちった!」
「そうか、よかったな」 「それは羨ましい!!」
同じような言葉でも、含んだ感情が正反対で、月と竜崎は思わず顔を見合わせてしまった。
「だろ?誰だと思う?」
「そうですねぇ・・・・・・もしかして、天然アイドル☆乙川ちゃんですか?」
楽しそうに続けるに律儀に答える竜崎、そして竜崎の違った一面に驚きつつ呆れ引く月。最近こんなのばっかりだなぁ、と冷静に自己分析をしている間にも、と竜崎の会話は続いていく。
「あ〜惜しいりゅ〜りゅ〜!確かにオレ、乙川っちも好きだけど、見たのは何と、人気急上昇中のミサてぃ!!」
「なんと!!あのミサミサをっ!!コレは羨ましい・・・ファンなんです」
「あ、マジで?オレはぶっちゃけ、セクCアイドル萌ちゃんの方が好きなんだよねぇ」
「これはくん、なかなかのマニアですね。ここで、萌ちゃんの名前を出せる人は、なかなかいません」
「あ、やっぱり〜?りゅ〜りゅ〜に褒められると、オレ調子に乗っちゃうよ?今回だけ、って呼んでくれなかったの見逃して、あ・げ・る☆」
「さすがです、声真似まで激似です」
馬鹿馬鹿しいやり取りを繰り返している二人を冷めた目で月は眺めていた。あぁ、馬鹿らしい。たかがアイドルにそこまで熱くなれるなんて。ずっと自分の後ろで笑いっぱなしのリュークに、もはや腹を立てる気すら起きない。
「あ、そうだ!ライト、教えてあげてもいいよ?」
「なんのことだ?」
いきなりの話を振られても、もはやそれほど驚くこともない自分に、と過ごした時間の長さを思って、月は少々気分が重くなった。が、はそんなことを気にしない。
「やだなぁ、ライト。もう老化現象?前から知りたがってた、オレの名前、条件満たせば、教えてあげてもいいよ?」
「・・・・・・前はあんなに嫌がってたのに、か?」
楽しそうに笑うに、月は無表情を装いながら、心のなかで冷酷な笑みを浮かべた。
「うん。このゲームもそろそろ止めようかなぁ、と」
「アレ?夜神くんは、くんの名前、知らなかったんですか?」
竜崎の発言に、月は驚いた。
「・・・竜崎は知っているのか?!」
「当ったり前じゃ〜ん!!だって、オレとりゅ〜りゅ〜はキスする仲だもん!!」
「・・・・・・・・・」「くん!!!?」
焦る竜崎と、笑うを醒めた目で見つめていた月だったが、次のの発言で、そんな他人事な態度も崩れてしまった。
「ライトにも教えてあげるよ?オレとキス、してくれたらね」
りゅ〜りゅ〜から聞くのは卑怯だからナシね、と続けるに本気で殺意を覚えた月だった。
「いいのか?名前バラして?」
次の講義へ行く月と竜崎を見送り、一人で煙草を咥えていたの隣にすっと並んだリュークが囁いた。その言葉に、がにっと唇の端をあげる。
「仕方ない、潮時だ。そろそろ仕事溜まってるって泣きつかれてるし、これ以上好きになる前にって、ね?」
「そうなのか?がいなくなったら、つまらなくなる、かな?」
「オレもだよ、なんてね」
最後は口の中だけで呟く。
「あの子に見られてばれるのはまずい」
シリアスに呟いて、まるでそれが幻だったかのように、いつものつかみどころのない表情に戻って笑った。
「問題は、ライトがいつ俺の名前をノートに書いてくれるかってこと、かなぁ」
アトガキ
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