「だ〜か〜ら!!あたしは、分かんないから訊いてんの!!何で、あんたみたいな子に、浮いた話の一つもないわけ?!!」
「いやいや、それは私のセリフですって!乱菊さんこそ、どうなんですか?」
「あ〜たしの話はいいのよぉう。今夜は、の話が訊きたいの〜!!ねぇ、七緒!?」
「そうですね。乱菊さんの話には、さほど興味ありませんから」
「あ〜、七緒が冷たい〜!いいわよ、あんたには聞かせてあげないから!!ね〜、!?」
「七緒さん!!助けてくださいよ!乱菊さん、完全に飲みすぎですって!!」
「見れば分かります・・・・・・で、どうなんです?」
お酒の入ったグラスを置いて、伊勢七緒が眼鏡の位置を直しながら、に顔を寄せた。
「さんには、好きな男性とか・・・恋人とか、いないんですか?」
「い、いない!!いない、いない!!!そんな暇、あるわけないじゃないですか!!!?」
激しく首を振るに、七緒も乱菊も揃って溜息を吐いた。
「そうですよね・・・この仕事で、恋人作る暇なんてありませんよね・・・・・・」
「そうよねぇ・・・暇、って言うか、恋人にしたいような、いい男、いないのよねぇ・・・・・・」
揃って項垂れた二人に、も曖昧に笑みを浮かべて、目の前の酒を舐めた。
しばらく、物寂しい沈黙が続いて、乱菊が、どん!とグラスを置いて顔を上げた。
「でも!!あたしは妥協しないわよ!!ぜ〜ったい、いい男、探してやるんだからっ!!!」
「そういうこと言ってる人は、一生結婚出来ないんです」
「ひっど〜い!!七緒だって、仕事ばっかりして一生結婚出来ないわよ、きっと!!!」
「まぁ、まぁ・・・・・・」
ギロリと睨み合った二人の間で、が取り成すように声をかけた。
そっぽを向いて、グラスを煽った乱菊が、ジロリとを横目で睨んだ。
「そう言うは、どうなのよ?どんな男がタイプなのよ!?ほら、言ってみなさいよっ!!!?」
「えぇっ!?」
「そうですね、参考までに是非。さんが、どういった男性が好みなのか、興味ありますね」
両側からジッと注目されて、は引き攣った笑みを浮かべた。
「・・・・・・好みの、タイプ・・・ですか?」
「そう!!抱かれたい、と思う男のタイプ!!」
「はい。お付き合いしたい男性像を、是非!!」
暫し、悩むように視線を泳がせてから、はおずおずと口を開いた。
「えっと・・・そうですね、
一角みたいな外見で、恋次みたいな中身で、射場副隊長みたいに男気溢れて、狛村隊長みたいに強くて、京楽隊長みたいにダンディーで、浮竹隊長みたいに優しい人・・・ですかね?」
頬を赤らめながらそう言ったに、二人は想像力を総動員した。
その一。丸刈りにした恋次が、射場のサングラスをかけている。しかも、年齢プラス20年で、マッチョ体形。
その二。年齢を重ねて温和になった一角が、口元をややニヤケさせながら、縁側で腕立て伏せをしている。
想像して、二人は嫌そうな顔をした。どう贔屓目に見ても、良さが分からなかった。が、隣のは、本当に恥ずかしそうに頬を染めている。
「・・・・・・よく分かんないけど、の好みが、うちの隊長ではないってことは、よく分かったわ・・・」
「・・・・・・理解に苦しみます・・・あえて忠告するなら、京楽隊長は決してダンディーではありませんから・・・」
「えぇ!!日番谷隊長も、京楽隊長もカッコいいですよ?!!」
「はいはい。ついでに、んとこの狛村隊長もカッコいいわよ」
そう言って、乱菊は酒を煽った。
は愛すべき友人だ。(誘えば必ず付き合ってくれる、希少な酒飲み仲間だ)
取り立てて、美人なわけでも、プロポーションがいいわけでもないが、どこか放っておけない。(華はないが、気になるタイプ)
密かに人気があるのも頷ける。(は、間違いなくいい子だ)
男性死神協会主催のアンケートで"結婚したい女性死神"で毎年上位に入っているのも頷ける。(ちなみに、あたしは"結婚したい"ではない・・・腹立つことに)
隣で酒に口をつけている友人を、ちらりと見て、決心した。
(には、幸せになってもらわなきゃ!!!)
問題は、の好みがとても難しい、というところ。(想像すらつきやしなかった・・・)が、問題が難しいほどやりがいもあるってもの。
そう考え直して乱菊は、まずは協力者を探そうと策を練った。
「ったく・・・・・・一角も恋次も、何で断るかなぁ?願ってもない話だろうに!!」
"に恋人を作っちゃおう大作戦"(勝手に命名)において、まずはの好みに合った恋人候補を調達しようと思い、乱菊は早速、行動を開始した。(もちろん、勝手に)
で、が(一部)好みのタイプと言って名前をあげた二人に白羽の矢を立てて、お昼の休憩中に声をかけたわけだが、あっさり断られた。
「・・・あいつらだって、絶対、まんざらでもないくせに・・・!!!」
最初、「が褒めてたわよ、あんたのこと、カッコいいいって?」「って、いい子よね〜?」「あんな子が一人なんて勿体ないわよね〜?」ぐらいまでは、一角も恋次も、ときにはニヤケながら乱菊の話に機嫌よく相槌を打っていたのだ。
それが、「あんた、を恋人にしちゃいなさいよ?!」と言った途端、二人とも苦虫を噛み潰したような顔をして、そそくさと席を立ってしまった。
「・・・・・・一角、恋次が駄目なら次は・・・・・・って、本当に、の好み、理解に苦しむわ・・・・・・」
溜息を一つ吐いて、乱菊は7番隊の隊舎へと足を向けた。
「そう思うなら、射場副隊長がの恋人に立候補すればいいじゃないですかぁ!!」
先の二人と同じ流れでここまでこぎつけて、そのセリフを口にした途端、射場の口元がムッツリと引き結ばれた。
(ありゃりゃ・・・射場副隊長もダメ?!)
サングラスに隠れて目元は見えないが、一角や恋次と同じような反応をしたことに、内心で乱菊は頭を抱えた。ここでダメなら、諦めるしかなくなる。が挙げた名前は次から隊長格、いくら何でも、それは無理だ。
「・・・はいはい。変なこと言ってスミマセンデシタ・・・」
呟いて、立ち去ろうと腰を上げた。(計画を最初から見直さなくちゃダメね・・・)
「・・・・・・ワシでは無理じゃろうて」
聞こえた声が沈痛で、乱菊は思わず動きを止めた。
「のぅ、松本・・・ひとつ、昔の話を聞いていかんか?」
サングラスで表情を隠したまま、射場鉄左衛門は語り出した。
当人たちにとって、既に過去となり忘却の狭間を漂うだけだった、昔の話を .
「・・・知らなかった・・・・・・に付き合ってた男がいたなんて・・・」
付き合っていたとは、言わんじゃろう・・・ほんの僅かな間だけじゃったからな .
「ったく・・・・・・も、何で言わないかなぁ・・・」
同じ7番隊の男でな、に告白して付き合うことになったと、相当喜んどった .
「・・・・・・あの子、なんだかんだで、秘密主義なのよねぇ・・・・・・」
が、すぐ別れたんじゃ。どうも、デェトしとっても、気ぃ使われ取るように思うたらしくてのぉ .
「・・・らしいけどさぁ・・・」
問質したら、"好意"を無駄には出来ん、好いてくれたもんを悪いようには出来ん、とそう言ったらしい .
「本当、寝耳に水って感じよ・・・」
断ることが、出来んかったんじゃ・・・自分も、同じじゃ、言うて .
「初めて聞いたわ・・・・・・・」
好いた相手に、拒絶されて、戻れない関係になるんは辛いから、だから、言えんかった、と .
「誰なのよ、その相手・・・・・・」
絶対に成就しない恋は、辛すぎると知っとるから、と .
ギリッと乱菊は爪を噛んだ。
あんなに可愛い子に、そんな思いさせる男なんて最低だ。(男のクズだ!)
何としても、探し出して、一発ぶん殴ってやらない時がすまない。(コテンパンだ!)
女がいつまでも泣いて待ってるだけの生き物だと思ってるような男なんかに、屈してなるものか。(そうだそうだ!)
あんたなんかいなくたって、立派にやっていけるのよ!馬鹿にしないで!(・・・あたしのことじゃないわよ・・・)
ふっと短く息を吐いて、隊舎へ向って歩き出した。
もしかすると、あいつなら知ってるかも知れない。(・・・あまり期待はしないけど)
機嫌悪く足を鳴らしながら、の同期の男に心当たりを聞くべく、乱菊は足を進めたのだった。
「 ってわけなの!何か知らない、修兵!?」
「・・・・・・・・・って言われてもなぁ・・・」
最後の頼みと尋ねた男は、そう言って面倒臭そうに頭を掻いた。
「・・・まぁ、最初から期待してなかったけど、ね・・・・・・」
「乱菊さんの頼みとあれば、俺も協力したいんですけど、ね?!」
「・・・・・・なら、協力しなさいよ、修兵」
う〜ん、と檜佐木は首を捻った。
(・・・・・・に恋人・・・本当に、初耳だ・・・・・・)
しかし、と同じ7番隊の、それも副隊長が嘘を言う理由も見当たらない。ということは、一時とはいえに恋人がいたのは本当のことなのだろう。
(・・・・・・・・さらに、が思いを寄せていた、もしくは、今も寄せている奴がいる、ってか・・・)
それも、のことを袖にするような、のよさを理解しないような男だというではないか。
(・・・・・・それは、何と言うか・・・・・・それが真実なら、心穏やかじゃねぇ、な・・・)
乱菊の手前、考え込むような態度をとってはいたが、檜佐木は内心動揺していた。
何だかんだと言い合いながら、それなりに腹を割ってとは話してきたつもりだし、付き合いも長い分遠慮のいらない気心の知れた相手として接してきたつもりだ。なのに、檜佐木の知らないの一面があった。(そりゃぁ、気にくわねぇよ)
お互いに、言いにくいこと、秘密はあるかもしれないが、それでもが悩んでいるなら、一言相談くらいあってもいいものではないだろうか。(うん、あってしかるべきだ)
たかが同期かもしれないが、されど同期だ。頼ってくれてもいいと思うのだが。(そんなに俺は頼りないか?)
「はぁ・・・もういいわよ。作戦立て直すから」
「あ、ちょっと!乱菊さん、待ってくださいよ!!!?」
溜息を吐いて乱菊が出て行く。閉められた襖を見ながら、檜佐木は、がっくりと椅子にもたれかかった。
動揺は収まるばかりか、沸々とした怒りと酷い落胆とを伴い始めた。
一角のような外見、恋次のような中身、射場副隊長のような男気、狛村隊長のような強さ、京楽隊長のようなダンディズム、浮竹隊長のような優しさ .
が上げたという理想の男性像の中に、自分の名が上がってないのはどういうことだ。(入ってしかるべきだ)
真央霊術院からの同期である自分の名前が上がってないのはどういうことだ。(おかしいじゃねぇか)
そこんとこの納得はいかないが、もしも、もしもがタイプだと上げたような男が実際にいるのなら
(・・・・・・勝ち目なんてないじゃねぇか・・・・・・)
自然と浮かんだその思いに、檜佐木は苦笑を浮かべた。(それじゃぁ、まるで俺がのことを好きなみたいだろうが・・・)
照れ隠しに、がしがしと檜佐木は頭を掻いた。
「・・・乱菊さんの色香にやられたか・・・・・・」
「やっほー、檜佐木。浮竹隊長から、おはぎ貰っちゃった!!」
能天気な声に振り返れば、窓の桟にへばりつくようにしてがいた。手に提げた袋をずいっと示して、おはぎが嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。(そんなにおはぎが嬉しいか・・・お前は草鹿副隊長か・・・?)
(それとも、浮竹隊長から貰ったから、喜んでいるのか・・・・・・)
「黄粉に餡子もあるよ〜、檜佐木どれにする?」
すでにガサゴソと中身を物色しだしたに、いろいろ悩んでるのが馬鹿らしくなってきた。(そうだ、こういうやつだった)
マイペースで大雑把。恋愛ごとで心を痛めるようなタイプでは、間違ってもない。(俺とは正反対だ)
「そんなとこで開けてんじゃねぇよ・・・・・・茶、ぐらい入れるから、上がれ」
溜息を吐きつつ促せば、「やった〜!」と歌いながら、表に回るべく窓から姿を消した。
乱菊に出し損ねたままだったお茶に湯を注ぎ、湯飲みを二つ準備すれば、襖が元気よく開いてが現れた。
「狛村隊長のお使いで13番隊に行ったら、持ってけって言われちゃった!!ラッキー!あ、私、餡子にするから」
そう言いながらさっさと包みを開けて、現れたおはぎに歓声をあげるを見ていれば、もう苦笑するしかない。(単純なやつだ)
「・・・・・・ったく、乱菊さんから聞いたぞ?何だ、あの好みのタイプは?」
「へ・・・・・・・?!」
今当に大口を開けて、おはぎに噛み付かんとしていたが動きを止めた。その手から、ぼとりとおはぎが皿に落ちた。(変な顔)
「え、え、え、え、え〜?!!!な、な、な、な、な、何、聞いてんのぉ!!!?」
顔を真っ赤にしたが吼えた。(面白い)
「えっと、確か?一角の外見、恋次の性格、射場副隊長の男気、狛村隊長の強さ、と後 」
「ぅわ、うわ、うわ〜ぁ!!!何、言っちゃてるの?!!!やめて、やめてってば〜ぁ!!!!!」
「 で、何で、俺が入ってないんだよ?」
耳まで赤くしたが、ばたばたと暴れるのが面白くて、にやりと呟けば、観念したように頭を机に落とした。(玩具みてぇ)
「うぅぅぅ・・・酒の席で、ついつい口が滑ったんだってぇ・・・」
悔しそうにが呟く。あんまり真っ赤になって焦るものだから、少々可哀想な気がしてきた。(苛めすぎた?)
「酷いや、乱菊さん・・・・・・喋っちゃうなんて・・・」
「いくらタイプっていっても、お前・・・あれは欲張り過ぎだろ?」
「いいじゃん。タイプは?って質問だったんだもん。理想言ったって、いいじゃん」
苦笑して言えば、顔を真っ赤にしたままが口を曲げて不貞てみせる。
「じゃぁ、実際は、どんな人好きなんだよ?」
尋ねれば、ギロリとに睨まれた。(何で、そんなにオッカナイ顔で睨むんだ?)
「何それ?そんなこと、檜佐木が聞きたいわけ?」
「まぁ、な・・・・・・参考までに」
「何で、言わなきゃいけないわけ?」
「別に、いいだろ?俺たち、同期だし」
「関係ないじゃん、今それ。どうして?急に聞くの?」
「いや〜・・・俺、のそういう話聞いたことないし、と思って」
「そりゃぁ・・・言ったことないもん。檜佐木は知らないでしょうよ」
「だから、聞きたいと思ったんだ」
「何で?興味ないくせに」
「いや、興味あるぜ?がどんな奴、好きなのか」
ギロリと睨んだまま、が黙った。(だから、何で睨むんだよ?)
黙ったままでいるのも気まずくて、目の前のおはぎを口に入れた。(あ、意外に美味しい)
手についた黄粉を舐めたところで、仏頂面のままが口を開いた。
「・・・・・・強いくせに弱くて、真面目なくせにどっか頼りなくて、頑張ってるのに報われなくて、優しいくせにダメで、とっても鈍い奴。そういうやつが、好きなの」
言い切って、もおはぎを口に放り入れた。数回噛んで、ごくりと飲み込み、お茶を流し込んで、思いっきり舌を出す。(変顔だ)
仏頂面のに、俺は首を捻った。(どう考えても、今のって・・・・・・)
「・・・・・・、お前それ、どんだけダメ男が好きなんだよ?」
そう言ったら、がきょとんとした顔をして、次いで大爆笑をした。
腹を抱えて笑い転げるに、何だかよく分からないまま、檜佐木も一緒に声を上げて笑ったのだった。
余計なこと
アトガキ
Photo by 塵抹
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