【すべてのもののなかで 先立つものは「こころ」である
すべてのものは「こころ」を主とし 「こころ」によってつくりだされる・・・】
夜が明けることのない、ここアンバーグラウンドで、誰もが支えとするその教え。
そして、その「こころ」が込められた手紙を配達する、郵便配達員―テガミバチ―。
人から人へ、托された「こころ」を運ぶ誇りある仕事 だが、その仕事をする人間の「こころ」がそれに見合うかどうかは・・・
近寄らないでください
「は?」
「だから、それ以上近づかないでって!!」
鼻息荒くが叫んで、自らの心弾銃を取り出した。
心弾銃といっても、のそれは銃と呼ぶには少々無理がある。
何といっても、デカイのだ。
肩に担いで構えるそれは、さながら花火の大筒のような大きさで。
ガチャンガチャンと荒っぽく組み立てて、がそのデカ心弾銃の最後の安全装置を外す。
「アレは、私の獲物なの!!」
「あっそう。じゃ、頑張って」
「うっしゃぁ!! バッキバキのボッコボコにしてやるぅ!!!心弾装填 !!」
楽しそうに笑いながら、が鎧虫―ガイチュウ―「ラオラオ」の大群に向かって心弾銃を構える。
「轟け!漣菊緑輝!!!!!」 ―サザナミギクリョクテカ―
が叫んで放った心弾が、太い尾を引きながら一直線に鎧虫に向かって飛んでいく。
「っしゃぁ!! どうよっ!!!」
大群の真ん中をぶち抜いて、心弾が弾け、緑色の眩しい光が空を輝かせる。
眩しい光に、細い目をさらに細めて、モック・サリヴァンは小さく溜息を吐いた。
「相変わらず派手な心弾だな・・・」
弾けた心弾が細かい光の星となり、辺り一面に降ってくる。
「本当に派手すぎだろ・・・」
目の前に振ってきた星が、消える瞬間に一際明るく輝いた。
ラオラオなんて、私だけで充分! .
また一つ、星が輝く。
モックの手は借りないんだから!! .
また一つ。
私だって「BEE」なんだもん!! .
「・・・自覚があったとは驚きだ」
なぁ?と、顔を覗かせた相棒のクランクに同意を求めてみた。が、クランクはニョン?と首を傾げただけだった。
「驚くべきだって。自覚があるのに、あんなにいい加減で適当なんだぜ?」
モックの視線の先では、ガシャン、とが二発目を装填している。
「まだまだ! 貫け!! 青緑光路!!!」 ―セキリョクコウロ―
さっきと同じように緑色の光が、空を染める。
が、鎧虫の方も今度は大半がその光をかわした。
中り損ねた光の星が、先ほどよりも大量に辺りに降注ぐ。
ねぇ、いいかな? .
私、「BEE」になっていかな? .
鎧虫、倒すために「BEE」になってもいいかな? .
「・・・・・・うるさい・・・」
先程よりも強く聴こえる囁きに、眉を寄せた。
テガミバチが放つ心弾は、その名の通り、撃つ者の「こころ」だ。
撃ち出す弾丸は、「こころ」の欠片・・・・・・
ホント、何でだろう? .
何で、私、あんなやつのことを? .
どうしてだろう? どうして .
「・・・・・・・・・・・・」
気にしてもいい? .
惹かれてもいい? .
好きでもいい? .
落ちてきた光の星が、掌の上で消えた。
ねぇ、モックのこと、好きになってもいい? .
「・・・・・・馬鹿なのか?」
光が弾けた掌で、ガシガシと襟足を掻き乱して、モック・サリヴァンは深く溜息を吐いた。
撃ち出す弾丸が「こころ」の欠片であることは、もちろんテガミバチであるも分かっているはずだ。
ならば、撃ち外した「こころ」の欠片が人目に曝されていることだって分かっているはずなのに。
しかも、の心弾銃はデカイ。
必然的に、撃ち出す「こころ」も大きくなる。
その分、人目に触れる「こころ」が増えることぐらい分かっているはずなのに。
同行者に見られてしまう可能性だって、あると分かっているはずなのに。
さらに、その同行者がモック・サリヴァンだと分かっているはずなのに。
なのに、毎回毎回は躊躇うことなくド派手に心弾銃を打ち上げる。
そして、毎回毎回の「こころ」の欠片を覗き見することになってしまう。
分かっていないはずがないのに。気付いていないはずがないのに。
「・・・まさか、本当に馬鹿すぎて、気付いてないとか?」
その疑惑を証明するかのように、新たな心弾を装填しているに迷いは見られない。
「やっぱり馬鹿なんだな、あいつ」
モックが生暖かく見守る先で、が心弾銃を構えて高らかに吼えている。
「逃げても無駄無駄ぁ! 行っけぇぇ! 緑冠流星!!」 ―リョクカンムリリュウセイ―
迷いなく放たれた「こころ」の欠片が、今度は無数の細かい光となって、飛び回る鎧虫に向かって、不規則な軌道を描きながら追いかけていく。
好きだぁ!! .
私は、モックが大好きだ!!! .
好きなんだもん!! 仕方ないじゃん!! .
むしろ、愛してるってやつ? .
そうだ!! 愛しちゃってるからっ!!! .
モック!! 愛してる〜!!!!!
.
「馬鹿だな」
呟いて、呆れた笑いを浮かべるしかない。
ふと振り返れば、ド派手なの心弾銃の光に、何事かと何人か、モニカの町の住民が集まってきている。今はまだ遠いから問題ないが、さらに人が集まるような事態になれば、面倒なことになる。
鎧虫「ラオラオ」はまだ残っているし、それが集まった住人たちに危害を加えないとも言い切れない。
相変わらず、光の星は降り続いて、周囲はの「こころ」で騒がしい。
モックは、もう一度溜息を吐き出した。
「だから、と組むのは嫌なんだ。結局、何だかんだで俺の手助けが必要になるし。
だいたい、の心弾が非効率なのが問題なんだ。
あんな大玉、ぼんぼん撃ってたら、そりゃぁサンダーランド博士からドクターストップかかるのは当然だしな。
だいたい、何なんだ? あの心弾は・・・俺以外が組んだら恥ずかしくて仕方ないだろう!!」
メンドクさく、モックは、やれやれと頭を振った。
「いくら一人で退治するって言ったって、こんな「こころ」を撒き散らしてたら、それこそ公害以外のナニモノでもないだろうしな!
ったく・・・!! に係わってたら、ろくなことがない!!
これやるなら、明日一日無駄になるし! 俺の配達も遅れるし! 結局、損をするのは、俺じゃないか!!
くそっ・・・・・・!! クランク、カモン!!」
呼ぶと同時に、相棒のクランクがシュルシュルと腕を這い上がってきた。
「ったく・・・!! 他の奴らに聴かれる前に片付けないと・・・・・・!!!」
クランクの牙が、カプッと首筋に刺さるのを感じた。体中の血が逆流するような、いつもの感覚 .
「 ひゃっはぁ!! ハッハハハァー!!!!!」
「うっせぇ!!! さっさと片付けっぞ!!!」
二人の放った心弾が、一際ド派手にアカツキの空を染め上げたのだった。
アトガキ
まさか・・・まだ書けるとは・・・・・・1話で満足出来なかったみたいw
そういうあなたが好きなんです。意外、じゃなくて、ちゃんとお似合いなんですって・・・・・・
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