『店長、ごめんなさい!田舎のおじさんの葬式で、5日間バイト休みます!!』

  焼きあがった餃子を皿にのせながら、は、バイトの子が満面の笑みで口にしたセリフを思い出して、軽く溜息を吐いた。

  「・・・・・・田舎のおじさん、何人いるんだか、あの子・・・・・・」

  「おねぇさん、エビマヨまだ?」
  「はぁい、すみません!今、お持ちします!!」
  営業スマイルとともに、は手元の中華鍋を振るった。





















  それなりに繁盛している亭に、ヨロヨロと新八が現れたのは、そろそろ夕飯を食べようとする客が入り始めた頃だった。
  調度、注文を受けたチンジャオロースを仕上げたところだったは、新八の姿に、僅かに眉を顰めた。

  「あら、新八くん、珍しいわね?お店まで来るなんて」
  「・・・さん・・・・・・何か、食べ物を〜」

  ヨロヨロと盛られたチンジャオロースへと引き寄せられた新八から、皿を遠ざけながら、は厨房の隅へ顎をしゃくった。

  「調度よかった。いつものタッパに入ってるの、万事屋へ持ってってちょうだい」
  「食〜べ〜物〜・・・・・・」

  厨房の隅に積まれた、タッパの方へヨロヨロとゾンビのように近づく新八に溜息を吐いた。
  先に、客のもとへチンジャオロース定食を届けてから、は床をナメクジのように這って、タッパへと近づこうとしていた新八の襟首を掴んで持ち上げた。

  「あ〜、何するんですかぁ、さん・・・・・・」

  血走った目で、力なく抵抗を試みた新八を、カウンターの一番端の席に押し込めて、は厨房へ戻ると、茶碗に粥をよそって、ドンっとカウンターに置き、レンゲを突き出した。

  「うちの一番安いメニュー、中華白粥。トッピング無しだから、180円ポッキリ
  「さん・・・僕、今、お金、持ってないんですぅ・・・・・・」
  「良いわよ。余りもの入れたタッパを万事屋まで届ける手間賃引いて、特別価格150円にしてあげる」
  「だから、1円もないんですって・・・・・・」
  「だから、いいって。銀時から払ってもらうから」
  「さん・・・!!ありがとうございます、いっただきま〜す!!!!!!」

  叫ぶとともに、粥を流し込む新八に苦笑を浮かべる。

  「悪かったわね。バイトの子が休んじゃってね・・・明日から出てくるはずだから、また余りもの持ってってあげるから」
  「ふぇえ、ふぇかふひょくひゃい、ふぃんふぁんふぁ、ふぁふひんへふから」
  「・・・落ち着いて食べないと、胃までヤケドするわよ?」
  「ふぁい、ふひまふぇん」
  「・・・ったく。本当、新八くんも、酷いとこに勤めちゃったわね?」

  笑って、は再び中華鍋を握った。

  一人しかいないバイトが急に休みをとって、今日で5日目。
  いつもなら、調理に専念すればいいのが、さらに配膳や皿洗い、会計まで一人でこなさなければならず、休憩をとる余裕すらなく店に立ち続けたため、結果として、ルーチングと化していた万事屋へ余りものを届けることが出来なくなっていた。
  5日分溜まった"余りもの"は結構な量になっている。万事屋の面々なら、半月前の食材を食べても平気だと確信しているので、腹痛を起こす心配はしていない。が、さすがに、今日持っていけなかったら、処分しようかと思っていたので、調度よかった。食べられるものを捨てるのは、どうも勿体なくて気が進まない。
  新八に持っていってもらえば、食材も無駄にせずにすむ。本当に、顔を出してくれて良かったと思う。
  新八がこの様子では、が万事屋を訪ねなかった5日間、まともな食事を取っていないのではないだろうか?下手したら、食欲大魔神の神楽あたりに、銀時は食されてしまっているかもしれない。残った銀時の骨は、定春あたりが美味しく食べるだろうし。

  そんなことを考えながら、はラーメンのスープ鍋に出汁取り用の骨を沈めたのだった。





















  「うわっ!!?なにやってんの・・・・・・?」
  「よぉ」

  最後の客が帰り、洗い物も片付けて、そろそろ店を閉めるために暖簾を仕舞おうとして、表の引き戸を出たすぐ隣に、見慣れた銀色天然パーマを見つけて、は思わず声を上げた。

  「ったく、びっくりさせないでよね・・・中、入れば良かったのに」
  「こんな小汚い店、ゴメンだね。パフェがない時点で、俺の入る店じゃねぇよ」
  「はいはい。甘味どころは、通りの向こうですよ」
  「もう閉まってるって」
  「あっそう。で?なにしに来たわけ?」
  「はん!まさか、お前の顔見に来た、とか言って欲しいわけ?ないない、ありえないって!!!」
  「そんなキショイ言葉、聞きたくもないわよ!そこ、邪魔。用がないなら、さっさと帰んなさい!」
  「気の短ぇ女だな?!あ〜あ、女の独り身は寂しいねぇ〜」
  「銀時。私、今日一日働いて、疲れてんの。あんたと違って忙しかったの。虫の居所は、元々悪いの。
   で、今の発言はなに?あんた、殺されたいの?
  「五月蝿ぇよ。これ、返しに寄っただけだ」

  持ち上げられた大きな袋の中を覗けば、洗った大量のタッパが詰め込まれている。
  そう言えば、夕方、店へやってきた新八に、余りものを詰めたタッパを持たせたことを思い出した。

  「ああ。わざわざ洗って返しに来てくれたわけ?悪いわね」
  「調子にのんな!わざわざコレ返す為に来たわけじゃねぇよ!!自惚れてんじゃねぇよ、この勘違い女!!」
  「黙れ、このクルクル。マジで、暗闇で背後から殺るぞ?!」
  「はん!程度の腕で、俺が殺れるかってんだ!返り討ちにしてやる!!コテンパンだ!!!」

  店の前で、互いの襟首を掴んでメンチを切りあう。
  同じタイミングで、その手を突き放し、銀時が腕を組んでそっぽを向いた。

  「けっ!!!ジャンプ買いに出るついで、だ。その、ついで、で、返しに来てやったんだよ!」
  「そうでございましたか!それは、それは、わざわざご苦労様でございましたね!」
  「ったく、ホントだぜ、面倒臭ぇ。
   『今日中に返さないと、明日、から御飯の差し入れがないアル!!』って、あのチャイナ娘が煩ぇから、わざわざ来てやったんだ」
  「あっそう」
  「ったく、神楽が神楽なら、新八も新八だぜ。お前んとこへ食料恵んでもらいに行きやがって」
  「餓えさせてる銀時が悪いんでしょうが、それは」
  「しかも、あいつ、帰る途中でツマミ食いしてやがるし・・・・・・」
  「あ。そうだった」
  「なんだよ?」

  は、ずいっと銀時に向って掌を差し出した。

  「150円
  「なんだぁ?」
  「ほれ、150円。今日、店に来た新八くんに食べさせた、粥代」

  そう言って促せば、銀時が思いっきり顔をしかめた。

  「そんな金ねぇよ。1円も持ってないって」
  「?」
  「明日、万事屋へ来たときに、本人から徴収しろ」
  「え〜、銀時に払ってもらうって、新八くんに言っちゃったのに」
  「だったら、次の給料日まで待て。新八の給料から天引きして、渡すから」
  「・・・ちゃんと、覚えてなさいよ?」
  「なにそれ?お前、銀さんが借金踏み倒すような、みみっちい男だと思ってたわけ?!
   ひっでぇ〜、約束は守るのが、男でしょうが!」
  「いや、現に今、金払わないじゃん」
  「俺だって、男の子よ?ちゃんと立派なもんついてるし?!!
   なんだったら、今この場で確認する?俺の立派なフランク・・・」
  「いらないわよ。そんな貧相なモン、見たくもない。払ってくれるんなら、それでいいわよ」
  「貧相って、酷くない〜!?俺の立派なマグナム・・・・・・」
  「黙れ。露出魔か!潰されたくなかったら、きっちり仕舞っとけ!!」
  「訂正しないとこが気に食わないけど、まぁいいや。
   相手に見せたって、銀さん何にも楽しくないモンね〜」
  「それは私のセリフだ」

  互いに、ふん、と顔を背ける。

  「さて。さっさとジャンプ買って帰って、糞して寝るか」
  「さっさと帰って、そのまま一生寝てろ!」
  「本当にそうなったら、悲しむくせに」
  「・・・銀時、ジャンプって、火曜以外にも発売するわけ?」
  「あれ〜、知らなかった?合併号なんかは、発売早いんだよ!じゃぁな」

  ひらひらと手を振って去っていく後姿を見送ってから、は暖簾を手に店の扉を閉めた。
  店の壁にかけられたカレンダーを眺める。

  「ジャンプが、木曜日発売するのかよ・・・・・・」

  苦笑を漏らして、暖簾を片付けながら、冷蔵庫の中身を頭の中に思い浮かべる。
  相変わらず、嘘を吐くのは芸術的に下手な男だ、銀時というやつは     .

  「明日は、ホイコーローと、ゴマ団子に杏仁豆腐が"余りもの"か・・・」

  自分も大概、物好きだと再認識して、はにやりと笑みを浮かべた。

  「気にいらないな。甘いものばっかりじゃないか











理由不必要











 アトガキ
  お互い素直じゃないね、っていう話。
       考えるのが、面倒なだけだけどね。

Photo by 塵抹

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