「!! 頼まれてくれっ!!!」
「な・・・何、いきなり・・・・・・」
物凄い勢いで近づいてきたかと思えば、彼はガバッと音がするほど勢いよく頭を下げた。
「頼む!! お前の力を俺に貸してくれ!!!」
「え・・・えぇ?!」
顔を上げた彼が、拳を握り締めた。
「探さねばならんのだ!! 何としても!! 極限にっ!!!」
叫ぶ彼の後ろに、燃え盛る熱い炎の幻覚が見えるような気がした。
「探すって・・・何を?」
「輝かしい未来で、愛するかもしれん誰かをだー!!!!!」
「・・・・・・はい?」
はっきり言って、彼の言葉は理解不能だった。
まぁ、いつものことだから、慣れてはいたのだけれど・・・・・・
「 10年後の未来の恋人、ねぇ・・・・・・」
「そうなのだ!! 何としても見つけ出さねば、俺の輝かしい未来が幻となってしまう!!!」
目の前で熱く意気込む笹川了平を、は苦笑を浮かべて見つめていた。
了平が言うには、10年後の了平の部屋には女性とのツーショットの写真が飾ってあったらしい。
まったくモテない、女子よりもボクシングを愛する自分が、そんな写真を飾っている理由は一つしかない つまり、自分の恋人だ と。
(・・・・・・10年後ねぇ・・・・・・)
夢でも見たのだろうが、思いっきり信じ込んでいる。もう何を言っても、了平は止まらないだろう。
極限に熱く生きる男、それが笹川了平なのだから。止まれるわけがない。
夢で見たその女性を探し出す、そのことで彼の頭はすでにいっぱいだ。
「で。私にその似顔絵を書け、と?」
「そうだ!! 是非にお願いしたい!!!」
「・・・なんで、私が?」
「何故だとっ?! 人を探すためには、まず似顔絵と決まっているではないか!!!」
「別に決まってないし・・・そこじゃなくて、なんで私が書かなきゃいけないわけ?」
「美術部部長の以外の誰に出来る!!! お前こそが適任だ!!!」
「あー・・・・・・そうですか・・・・・・」
ちょっと遠い目で呟いてしまったのは許して欲しい。
だって、よりにもよって、それを私に依頼するか?! 中学入学以来ずっと笹川了平に片想いをし続けている、この私に!!?
まぁ、了平本人に伝えたことがないから、彼が知るわけもないし。だから、ここで不機嫌になるのは筋違いだと分かっている。
「頼む!! !! 貴様だけが頼りだ!!!」
熱い瞳でそんなこと言われたら、断れるはずがないじゃないか。
「はぁ・・・仕方ないなぁ、一つ貸しだからね?」
「すまん!! 感謝するぞ、!!」
満面の笑みを浮かべる了平に、溜息を吐いて、筆入れからデッサン用の鉛筆を取り出す。
スケッチブックを開きながら、大切なことを一つ確認しておく。
「その女性、10年後の京子ちゃん、ってオチはないでしょうね?」
「うむ。それはない」
「・・・なんなの? その絶対の自信は。女なんて、10年経ったら変わる人は変わるんだからね?」
疑いの目を向けてみるが、了平は変わらず自信満々だ。
「俺が、京子だと分からないはずがない!! 大切な妹だと、気付かないほどマヌケではないぞ!!!」
「さようでゴザイマスか、それは失礼イタシマシタ」
呆れた呟きを漏らしながら、小さく溜息を吐いた。
京子とは、笹川了平の妹の名前だ。
似ているのは天然で楽天家、という性格的な部分だけで、見た目には兄妹とは思えないほど、妹の京子は可愛い。
そのため、だけではないのだろうが、了平は軽くシスコンだ。いいや、訂正しよう。結構なシスコンだ。
今現在、10年後も了平の隣にいてツーショットの写真を撮る可能性が最も高い人物だったが、ここまで自信満々にシスコンの了平に違うと言われてしまっては、別人なのだろう。
(・・・未来の恋人、ねぇ・・・・・・)
もう一度小さく溜息を吐いて、鉛筆を握りなおした。
「・・・じゃぁ、まず、その女性の特徴は?」
「太っていた」
「・・・は?」
「うむ。 違うな。太っていたと言うよりも、腹が出ていた」
「・・・・・・はぁぁぁぁぁ?!!!!」
思わず椅子をから、飛び上がってしまった。
「なんだ? は太った人間に偏見を持っているのか?!
それは失礼だ!! 確かに、ボクシングにはむかんかもしれんが、相撲をとるためには、必要なことでもあるのだぞ!!! 一概に、太っていることを悪く言うのはいか〜ん!!!」 「いや・・・あの・・・そうじゃなくて・・・・・・・・・」
それって、それって、太ってたんじゃなくて、妊娠してたんじゃ・・・・・・ なんて口に出せるはずもなく、ヘニャヘニャと座りなおした。
顔が火を噴きそうに熱い。急に噴出した汗を誤魔化すように、もう一度鉛筆を握り締める。
「ほ、他に、なにか、ないの? 顔の特長とか・・・?」
「顔か? そうだな・・・・・・」
じっとキャンパスに視線を落として、了平の言葉を待った。
「確か、目が二つに、鼻が一つ・・・そうだ! 口も一つだった!!!」
「・・・・・・それで?」
「確か、眉も二つだ!! 頬があって、肌色をしていた!!!」
「・・・・・・」
「どうだ?! 書けたか?」
「書けるわけあるか〜!!! 人間なんて、大抵そんなもんだろう!!!」
とうとう我慢出来ずに、叫んだ。だが、了平は不思議そうに首を傾げている。
「そうか? そうとも限らんだろう? そうだ!! 眼帯などもしていなかったぞ。それから、マスクもしていなかったな」
「・・・・・・あぁ、そうですか・・・」
「それに、腕も2本だった。教科書に載っていた仏像のように腕が何本もあったり、顔が何面もあったりはしていなかったな。それから 」
続く了平の説明は、どれも人間の説明で、似顔絵に出来るような特徴は出てこない。
(・・・・・・10年後、かぁ・・・・・・)
了平の説明を聞き流しながら、ぼんやりとスケッチブックに鉛筆を走らせる。
10年後、自分はどうなっているのだろう? もう結婚してる? それとも独り身? 20代前半なら、結婚はまだかも知れない。でも、彼氏くらいはいて欲しいな・・・それとも、自分はまだ了平のことが好きだったりするのだろうか・・・・・・
「おぉぉ!! そっくりだ!!!」
「へ?」
了平の感嘆の声に、はっと現実に引き戻された。
「さすがは!! ここまで上手く描いてくれるとは!!!」
スケッチブックを覗き込んで、了平が満面の笑みを浮かべている。
「これさえあれば、俺以外の者にも、俺の未来の恋人を探してもらうことが出来るぞ!!!」
「ちょ、ちょっと?!!」
慌てても、もう遅い。了平はのスケッチブックを高々と掲げて見せた。
「これが、俺の未来の愛する誰かだー!!!!!」
「〜〜〜〜〜?!!」
顔を真っ赤にして、は硬直した。
だって、スケッチブックに描いたのは、目の前にいた了平の顔と、その背後の鏡に映っていた自分自身の顔で・・・・・・
「恩に着るぞ、!! 俺は今から、この似顔絵を持って、日本中を探しにいってくる!!!」
「ちょ、ちょっと!! 待って!!!」
「礼は戻ってからだ!! 待っていろ、俺の愛するかも知れん誰か!!!!! 極限、ダァッシュ!!!!」
一直線に飛び出していく背中に手を伸ばしても、最早走り出した了平を止めることなどできるわけもなく。
「え、え、えぇぇぇぇぇえ?!!!」
知っている人が見れば、明らかにと了平を描いたと分かるに違いない。
(何で、気付かないの?!! 了平のバカァ〜〜〜!!!)
「ちょ、ちょっと待ってって!!! 待ってってば、了平〜!!!!!」
結局、も了平の後を追って走り出したのだった。
人間なんてそんなもの
アトガキ
真剣に、了平は好きですよ〜!! こういうテンション、大好きです!!!
気付いてないのは君だけなの・・・・・・?
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