「ねぇ、どこ、行ったの・・・ねぇ、を一人にしないで・・・」
  それは、遠い記憶。忘却の彼方へ沈めた過去。
  あの日、泣きながら探したのは、自分を育ててくれた人。大好きだった、庇護をくれた人。
  親だったのか、それとも赤の他人だったのか・・・分かっていたのは、この人なら自分を守ってくれる、絶対にこの人の手を離してはいけない、それだけ。
  もう、何と呼んでいたのかさえ覚えていない。
       流れ星を見つけたら、願いが叶う     .
  そう教えてくれたのは、その人だったのか、それとも別の誰かだったのか・・・ただ、必死になって星空を見上げていた。
  何を叶えたかったのか、それさえもう覚えていない。
  必死になって流れ星を探して・・・・・・気付いたら、その人はいなかった。
  私が逸れたのか、それとも置いていかれたのか・・・確かなのは、私が必死で星を探していたこと、それだけ。
  そして、その人とは二度と会えなかった。それから、真央霊術院に入るまでずっと一人で生きてきた。
  一緒に死神を目指す仲間が出来て、私はそれまでを忘れることにした。
  尸魂界では、流魂街では、珍しくもない過去なんて、必要なかったから。
  あの日以来、私は止めたことが二つある。
  ひとつは、流れ星を探すこと。
  もうひとつは、何かに本気に、必死に、なること     





















  「     破道の三十一・赤火砲!」
  「詠唱破棄じゃ、ラチがあかん!!、ワシが引きつけるけん、その間にっ!!」
  「え〜。だったら、私が引き付けますんで、射場副隊長、やっちゃって下さい」
  「なんじゃぁ、!たまには活躍せんかい!!!」
  「え〜。遠慮します。私には荷が重過ぎます」
  「悠長なこと言っとらんと、やらんかい!!」
  「えっと、じゃぁ     破道の三十三・蒼火墜!」
  「舐めとんのか、!!詠唱破棄じゃ、どうにもならんと言うただろう!!!」
  「え〜・・・だって、本気になってやって、上手くいった試しないんですからぁ」
  「・・・・・・ええ加減にせんと、うちの隊から追い出すぞ」
  「えっ!!射場副隊長、それは困ります!!私、他に行く隊なんてないんですから!?」
  「そうじゃろうなぁ、万年ヒラ隊士なんて、どこの隊もいらんだろうな」
  「ですよ!私を置いてくれるの、7番隊以外にないですって!!追い出さないで下さ〜い、射場副隊長バンザイ、狛村隊長ダイスキ、7番隊サイコウ!!」
  「だったら、きちんとやってみせろや?」
  「分かりました・・・・・・・どうなっても知りませんよ?」
  軽口を叩きながら、巨大虚と複数の虚の虚閃を避け続けていたは足を止めた。一つ息を吐いて、両手を翳す。(やっとやる気になりおった・・・)
  「"君臨者よ・血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ・焦熱と・・・・・・・・・"何でしたっけ?」
  引き攣った笑みを浮かべて、振り返ったが射場に首を傾げてみせた。(可愛い、けど許されんだろ!?)
  「馬鹿もん!!その程度の言霊も忘れたんか!!!」
  「ど忘れしちゃいました。スイマセン」
  苦笑しながら巨大虚の虚閃をひらりと避けたが、申し訳なさそうに謝った。(謝ってスマンだろ!!)
  「     でも、こういうの、思いつきました!"ブチマケロ"!!」
  が手を叩いた瞬間、複数体いた虚と巨大虚の体が、端から順に内側から弾け跳んだ。(まるで電子レンジの中の玉子みたいに)
  「・・・・・・・・・」
  「破道の十一番・綴雷電と、十二番・伏火を組み合わせてみました・・・・・・ブチマケロ、は止めたほうが良かったですかね?」
  若い番号の破道だから、威力もさして強くなく詠唱破棄も容易いが、即席で組み合わせて有効に使ってみせた。は何でもないことのように言っているが、ヒラ隊士が簡単にホイホイ出来るようなことじゃない。(さすがは斬拳走鬼そろった万能型)
  の鬼道を受けて、並の虚は全滅したが、体を裂かれながらも巨大虚はゆらりと立ち上がった。
  「だよね〜、あれくらいでヤラレテくれるわけないよねぇ」
  悠長に言って苦笑するの前から、巨大虚は逃げようと翼を広げた。
  「逃げる?でも、そうされちゃうと、射場副隊長に大目玉くらっちゃうから、やめてね     縛道の七十五・五柱鉄貫!」
  70番台の詠唱破棄はさすがに無理があったのか、暴れる巨大虚によって、徐々に拘束が緩んでいく。は両手を翳した。
  「"君臨者よ・血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ・焦熱と争乱・海隔て逆巻き南へと歩を進めよ"!破道の三十一・赤火砲!!」
  先の詠唱破棄したものとは比べ物にならない威力で貫いて、今度こそ巨大虚はボロボロと崩れていく。
  「良かった〜。言霊、思い出せましたよ、射場副隊長!!」
  そう言って、はにっこりと微笑んだ。





















  「     そうか。はそこまで力をつけておったか」
  「押忍ッ。席官は確実・・・四席あたりに据えても、問題はないかと」
  「ふむ・・・」
  射場の言葉に、狛村は腕を組んで唸った。(耳をピクッと動かした)
  「・・・・・・本人は、席官に付く実力ではないと申しておりますが・・・」
  「・・・いつまでも、そういうわけにもいくまい。そろそろ、実力に見合う官位に付けた方がいいだろう・・・・・・しかし     
  狛村が言葉を切って、口元を引き結んだ。(ヒゲがピクリと動いている)
  「     今のままのを席官に据えるのも、問題がある・・・そうだな、鉄左衛門」
  「・・・・・・・・・押忍」
  「・・・本人はどうした?」
  「隊舎裏にて、反省を促しております」
  「そうか・・・・・・甘んじて受けておるということは、本人にも自覚があるということであろう・・・」
  「・・・・・・押忍・・・」
  顔を上げた狛村が、溜息を吐き出した。(瞳孔がギュッと細くなる)
  「     戦いに本気になれぬ者を席官とするほど、護廷十三隊は甘くないからのぅ・・・」





















  「・・・ん?!」
  隊舎に戻ろうと歩いていたら、見慣れた姿を見つけて、檜佐木は足を止めた。
  7番隊の隊舎裏で、正座させられているその姿をからかってやろうと近づいた。
  「おい、・・・・・・!!?」
  声をかければ、その体がガクリと揺れた。(危なっ!!?)咄嗟に出した手に、しかし危惧したようにの体は倒れこまず、大きな欠伸とともに緩慢に体を起こした。
  「・・・お?おはよー、檜佐木・・・ふぁ〜ぁ」
  目尻に涙を滲ませながら、大欠伸を繰り返すに、苦笑する。
  「・・・・・・・・・お前、反省させられてるのに、寝てどうすんだ?」
  「ふぁぁ・・・だって、眠いんだもん、仕方ない・・・」
  そう言いながら、さらに大口をあけて欠伸を繰り返すに、もう苦笑しか出てこない。出しかけていた手を引っ込めて、正座しているの隣に腰を下ろす。
  「ったく。眠るくらいなら、星空でも見上げてろよ?」
  「うん?・・・あぁ、もうそんな時間か・・・」
  薄闇が広がった周囲を見渡して、半分寝ぼけた様子で、そんなことを呟く。(今更だな、おい)
  空に瞬き出した星を、檜佐木は見上げた。(って、こんな時間だよ?正座してんの、忘れられてんじゃねぇの?!)
  「・・・・・・7番隊で、お前を席官にって話あるらしいな?」
  「興味ないし」
  「そういうわけにも、いかないだろ?」
  「今まで何とかなったんだから、これからも何とかなる。ヒラでいい」
  むっつりと口を曲げたからの返答は、いつもと同じで、これじゃぁ射場さんも手を焼くだろうと苦笑が漏れた。(頑固だ)
  「射場さんが困ってたぞ・・・がいつまで経っても出世せん、って」
  「射場副隊長が、困らなくてもいいじゃん」
  「俺もだ・・・・・・さっさと上がってこいよ、
  「・・・・・・・・・私には、無理だよ」
  「まぁな・・・・・・全力で戦ってないもんな」
  「・・・・・・分かってんじゃん」
  そう言って、は正座していた足を崩して、膝を抱えた。(おいおい、反省させられてたんだろ?)
  「・・・・・・私は、席官には向かないよ」
  「諦めろ。もう、そういう時期じゃないんだ、俺たちの代も」
  「・・・・・・諦め悪くてもいいじゃん」
  「よくない。俺も、の本気を見てみたい」
  「・・・・・・・・・」
  黙ってしまったに、言い過ぎたような気がして、檜佐木は空に目を転じた。
  遮るもののない空で、今日は星がよく見える。(それこそ、流れ星でも探せそうだ)
  「流れ星に願ってみるか?の本気が見れますようにって」
  「・・・・・・無理だと思うよ」
  笑って空を指し示して言えば、は視線を落としたまま呟く。(・・・笑えよ)
  「だったら、席官にしないで下さいって、願ってみろよ?」
  「・・・・・・・・いや」
  視線を落としたまま、つれない返事をするに、溜息を吐いて、星空を見上げる。
  確かに、、が流れ星にお願いをするようなガラじゃないってことは、よく分かる。願うより、行動を起こすようなやつだ。思いついたことと行動が直結している・・・いや、行動しながら思いつくようなやつだ。(単純、大雑把、猪突猛進)
  「・・・・・・どうってことない昔話」
  「ん?」
  「よくある話。本当、聞き飽きてるような話・・・・・・けど、誰にも言ったことない話」
  突然呟きだしたに驚いて視線を向けた。(突然、何だよ?ネジでも緩んだ・・・?)わけでもなく、さきまでと同じように地面を見つめたままで、が口を開く。
  「昔ね、ネコを飼ってた・・・茶色い、痩せた、小さな、汚いネコでね・・・」
  檜佐木は黙って星空を見上げた。
  「どこに行くにも、私の後を付いてきてね・・・・・・大好きだった」
  檜佐木の見上げた空で、星は瞬き続けている。
  「・・・流れ星を探してるうちに、いなくなっちゃった・・・・・・まだ小さくて、私から離れたら、すぐに死んじゃうようなコだったのに、いなくなっちゃった。探しても、探しても、見つからなくてね・・・」
  檜佐木は黙って、星空の闇にまで目を凝らした。
  「・・・・・・死んじゃったかなぁ・・・あんなに小さかったんだもん・・・きっと、死んじゃった」
  檜佐木の見つめる星空は、静かに瞬いている。
  「私が、殺した。必死になって、流れ星なんか探してた、私のせいで・・・・・・はい。昔話おしまい」
  そう言って、が顔を上げた。檜佐木に目をやり、微かに微笑んだ。
  「で、檜佐木、流れ星見つかった?」
  「いや、まだだ」
  「そっか。って、私、いつまでここで反省してればいいわけ?誰か、呼びにこないのかよ?!」
  「     化け猫」
  「はい?」
  「そいつ、きっと化け猫だった。だから、きっと、まだ生きてるさ」
  目をまん丸にしたが、ふっと笑った。(嘘吐き)
  「なにそれ〜?化け猫なんて、見たことないよ?」
  「が飼ってたんなら、化け猫に決まってらぁ」
  「どういう意味!!?」
  「そのまんまの意味だ」
  「き〜!!!檜佐木のくせに、ナマ言ってんじゃねぇ〜!!!」
  大袈裟に拳を振り回すから逃げながら、笑う。(嘘吐き)
  きっと、そのネコは死んだだろう。でも、もしかしたら、生きてるかもしれない。のなかでだけ、生きていたっていいはずだ。が心を痛めてるんなら、生きていたほうがいい。きっと、その方がいい。(嘘吐き)
  の拳から座ったまま逃げていたら、とうとうバランスを崩して仰向けにひっくり返った。
  ひっくり返ったまま笑う檜佐木に呆れた溜息を吐いて、が立ち上がった。(しびれていたのか、もちょっとふらついた)
  「あ〜、もう!!!疲れたから、隊舎戻る!!」
  「・・・反省させられてたんじゃないのかよ?」
  「もう、絶対、忘れられてる!!夕餉、残ってるかなぁ・・・」
  呟くの隣で、檜佐木は仰向けでひっくり返って、星空を眺めた。もし、今、星が流れたら、自分はきっとネコが化け猫になっていることを願う。
  (今、流れ星が落ちたら、は何を願うだろう?)
  檜佐木が見つめる先の空で、星がひとつ、すっと流れた。











願い事は流れ星を追う君へ











 アトガキ
  唐突に、唐突に。そんな話にしてみました。そんな過去があるなんて、知りませんでしたw
  星に願ってかなうなら、いくらだって君のために空を見上げる・・・・・・

Photo by 塵抹

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