「本日、内々に許可が下った。を七番隊六席に任命する」
「これに怠けず、精進を怠ることなきよう。よいな、」
「七番隊の隊花にかけて、正義を通すことを誓います」
真っ直ぐに見据えて、はっきりと言い切ったに、狛村は頷いてみせた。
「とは言ったもののねぇ・・・」
はぁ、とは溜息を吐いた。
「な〜に、溜息なんか吐いてんのよぉ!!おめでたい話じゃないの〜!!?」
「そうですか?」
「もちろんでしょ〜?!あたしの友達が、とうとう出世したのよ!!祝わなくてどうすんのよぉ!!!」
「正確には、就任はまだです」
「な〜に、細かいこと言ってんのよぉ、七緒!!なることには変わりないんだから、水差さないでよ!!」
「そうですね。すみません」
素直に謝って、伊勢七緒が手元のグラスを持ち上げた。
「おめでとうございます、さん」
「そうよそうよ、乾〜杯!!!!!」
「七緒さんも、乱菊さんも、ありがとうございます」
もう今日何度目か分からない乾杯を二人と繰り返し、は舐めるように酒を口に含んだ。
もう今日何杯目か分からないグラスを空にして、どん!と乱菊が机に置いた。
「ちょっとぉ、遅いんじゃないの、あいつら?七緒、ちゃんと呼んだぁ?」
「ええ。抜かりはありません」
「他に誰か呼んだんですか?」
「は〜気にしないで。ほらほら、どんどん飲んじゃえばいいから!!」
「さんは、気にしなくて大丈夫です」
にやりと笑った乱菊と、眼鏡を光らせる七音に、は目の前の酒に口をつけた。(なんだろ、妖しい・・・)
さっきから乱菊と七緒に勧められるまま、大分飲んだ。(もともと、そんなに強くないし)
そろそろ、眠たくなってきてる。(酔うと眠くなるタイプなんです)しょぼしょぼになってきた目を瞬かせながら、欠伸をかみ殺した。
(ふわぁ・・・・・・誰か来るなら来るで、さっさと来ないと、寝ちゃうよ・・・・・・)
これで最後にしようと、が目の前の酒を煽ったとき、乱菊が大きく手を振った。
「お〜い、こっちよこっち!!!・・・って、余分なのも来てるわよ、七緒?」
「私じゃないですよ。勝手に聞いて来たんじゃないですか?」
「え〜、今日はのための、なのに、余分なの来てどうすんのよぉ・・・」
「どうします?」
「はぁ、仕方ないわね。我慢しましょう」
目の前で乱菊と七緒がなにやら小声でやり取りをしているが、酔いが回ってきた頭では何のことやらよく分からないまま、乱菊たちが勝手に呼んだ誰かが来たらしい、ということだけは理解できたは、緩慢に背後を振り返った。
「スイマセン!遅れましたっ!!」
「何だよ、もう始めてんのかよ?」
「女だけで飲んでるなんて、君たち寂しいよ」
「いや〜、可愛い子が揃ってて、おじさん嬉しいな〜」
「おい、!!お前、大分赤いけど、大丈夫か?」
眠気なんて吹っ飛んだ。(寝てる場合ではゴザイマセン!!)
呆れたように笑う檜佐木の姿に、ただでさえ血が上っていた顔が火を噴いた。(どんなサプライズ・・・・・・!?)
笑っている檜佐木の隣で、恋次が苦笑を浮かべている。
金魚のように口をパクパクさせるを放って、一角が乱菊に声をかける。
「弓親もついてきたけど、別にかまわねぇだろ?」
「わざわざ了承を取る必要なんかないだろう、一角?女だけで飲んでる寂しいところに、美しい僕が加わろうというのだから」
「いちいち言うことがムカつくわよ!!オマケは黙ってなさい!!」
「ふん!醜いなぁ、そんなんだから、いつまで経ってもモテナイのさ」
「言ったわね〜!!!表出なさいっ!!!」
「まぁまぁ、いいじゃないの?せっかくなんだから、皆で楽しく飲めばいいじゃない?
ねぇ、七緒ちゃん?僕も、そこで檜佐木くんと会って、連れてきちゃった。人数多い方が、楽しいでしょ?」
「・・・・・・京楽隊長・・・余計なことを・・・」
「うん?何か言ったかい?それにしても、七緒ちゃんと飲むの久しぶりだね?」
「明日に差しさわりのない程度で、お願いします」
「え〜、七緒ちゃん、ツマンナイなぁ〜?パァ〜っといこうよ、パァ〜っと!」
「・・・・・・仕方ありませんね」
「じゃぁ、早速」
「ちょ、ちょっと、京楽隊長!!」
「そんな無粋な呼び方しないでほしいなぁ〜?」
「・・・・・・う」
「図星さされて怒ったね。これだから、モテナイ女は嫌なんだ。醜すぎる」
「うっさい!!表でなさい!!今日こそは、目にものを見せてやるわっ!!!」
「やれるものなら、やってごらん。ま、無理だと思うけどね」
「あぁ、もう・・・一角さんも、黙って見てないで止めてくださいよ!?って、京楽隊長!!?七緒さんに何飲ませてるんっすか?!それ、スッゲー、キッツイ・・・・・・あぁ、もう、七緒さんも一気に飲まないで!!」
一人すべてに反応していた恋次が溜息を吐いた。未だに固まったままのに苦笑を浮かべて、隣の檜佐木の肩を叩いた。
「修兵さん、ちょっと俺、収集つけてくるんで、先にさんと飲んでて下さい」
「大丈夫か?俺も手伝った方が・・・」
檜佐木の肩をがっしり掴んで、恋次がそれを止めた。
「大丈夫っスから。檜佐木さんは、さんの相手してて下さい。お願いですから、大人しく座っててください!」
「わ、分かった・・・・・・」
「これ以上、ややこしくしないで下さいよ、お願いですから。・・・・・・あぁ!!?乱菊さんも押さえてください!ちょっと、一角さんも火に油注がないで下さいよ!!って、京楽隊長!?今度は七緒さんに何飲ませたんですかっ?!!七緒さん、笑いっぱなしじゃないですか!!!弓親さんも、大人になって・・・って、乱菊さん?!!俺は何も言ってませんって!!!!!!?」
の隣の椅子に檜佐木を押し込めると、恋次は喧騒の中へ飛び込んでいった。
「、お前本当に大丈夫か?どんだけ飲んだんだよ?」
「だ、大丈夫よ!大して飲んで、ないもん!!」
「それにしては、顔真っ赤だぞ?」
(誰のせいだ、誰の!!)檜佐木が突然現れたものだから、何気ないふうを装う余裕がなかった。にとって、檜佐木とまともに会話する為には、先に心の準備を整えておくか、それとなく檜佐木の霊圧を感じて"偶然"を事前に予兆しておかないと、難しい。酒が入って鈍くなったの感覚では、檜佐木の来る予兆を感じ取れなかったようで、心臓が暴れまわるのを止められない。唯一の救いは、赤くなった頬が、酒のせいだと思われていることか。
「席官の話、受けたんだってな?」
酒を注文して、檜佐木がに言った。頷いたに、檜佐木がからかうように言葉を繋ぐ。
「大丈夫か、?お前、象みたいに大雑把なくせに、蚤みたいに小心者だからな」
「う!!何で、バレてんの!!?」
「バレるって・・・そりゃぁ、何年の付き合いだと思ってるんだよ?周りが言うような、自由気ままで大雑把なだけの奴が、実習前に深夜まで復習してるかってんだよ」
「え、え〜!!?知ってたの?!!!嘘ぉ・・・・・・」
「俺が知らないと思ってたのかよ?・・・のそういうところは、単純って評判、当たってるけどよ」
机に突っ伏した状態で、は隣の檜佐木を軽く睨んだ。(そうですよ、単純だから、バレテるとは思ってませんでしたよ〜だ)
「そういうだから、六席になっても全然心配いらないと思うけどよ」
運ばれてきた酒を自分で注いで、檜佐木は杯を軽く掲げた。
「昇進、おめでとう、」
「・・・ありがと・・・・・・修兵」
の杯にも酒を注ぎ足しながら、檜佐木はにやりと笑う。(わぁ〜お、心臓が止まりそうだわ・・・)
「でも正直、が席官の話受けるとは思ってなかったけどな?随分、ヒラが気に入ってたみたいだから」
その言葉に、は机から体を起こした。(って、こっちが必死の思いで名前呼んだのに、反応なしかよっ?!!)
檜佐木に注がれた酒をぐいっと飲んで、頬を膨らませた。
「だって、修兵が言ったんじゃん。さっさと上がって来いって」
「まぁ、言ったけどよ」
「もう、ヒラでいるのも限界だって言ったじゃん・・・」
「言ったな」
再びは、机に頭を落とした。(なんだよぉ、呼んでんのに反応なしかよぉ・・・)
何だか、頭が限界だった。(心臓も)
思考が回らなくなってくる。(ふわふわしてる・・・)
「何で、あんなこと、言ったのよぉ・・・・・・」
「そりゃぁ、本当のことだろ?の実力で、ヒラなんて限界だろ」
「そうかも知れないけどさぁ・・・いや、そうじゃなくてさぁ、どうなのよ?!」
「ん?」
「だぁ、かぁ、らぁ、なんで気付かないかなぁ、修兵のバカ!!」
「なんだよ、いきなり?」
「あ〜、もう、バカ!!いったい、どういうことなのさぁ?!!」
言いながら、自分でも何を言いたいのかよく分からなくなってきた。(だって、こんなに呼んでるのに、気付かないんだよ?)
がばっと体を起こして、檜佐木の胸ぐらを掴んだ。がくがくと揺するつもりが、何だか自分の方が揺れているようだ。(あ〜、目が回る・・・・・・)
「ねぇ、修兵は、どう思ってるわけ?私を昇進させて、どうすんのよぉ・・・・・・!!!」
「おい、大丈夫か、!!?やぱり、飲みすぎてるだろ?」
「そんなことないわよぉ、ほらぁ・・・」
言って檜佐木の分の酒を飲み干してやった。(なにか、倒した気もするけど・・・)
再び檜佐木を揺すろうとするも、なんだか力が入らない。(うん?上はどっちだ・・・・・・?)
「・・・でぇ、どうなのよ?」
「おい、?!!」
「同期だから、ヒラは私だけだから、哀れんでんのかよ、このバカヤロウがっ・・・・・・」
「お、おい?!」
「修兵のバカぁ・・・もう、あんたなんて、大っキライなんだか、らぁ・・・・・・」
「・・・お前、だから、飲み過ぎだって」
ぐらりと揺れて、もう少しで後ろへ倒れるところだったその体を支えれば、そのままずるずると力が抜けていく。
「・・・離してよ・・・もう、キライになるんだから・・・・・・」
言いながら、重たい瞼を懸命に持ち上げようとするが、上手くいかないらしく、ずるずると頭を机に落とした。
「・・・ほんと、なんで、出世、させたがる、わけ・・・・・・・同期、だから?」
「ったく・・・が昇進する方が早いからだよ」
「・・・・・・?よく、分かんない・・・」
「とにかく、お前が強くなれば、昔みたいにライバルとして切磋琢磨出来るだろうが?」
「・・・・・・・・・」
「早く上がって来いよ?そしたら、背中預けられるだろ?」
「・・・・・そいうことか、修兵・・・・・・わかった・・・ちょ、頑張って、みる・・・・・・・」
「それに っておい、?早ぇな、もう寝たのかよ?」
机に突っ伏して無防備に寝息をたてるに苦笑した。(だから、呑みすぎだって言ったのに)
(・・・・・・俺が昇進して、を副隊長にするよか、よっぽど早ぇだろ?それに、その時のためには、が昇進しててくれた方がやりやすいし・・・・・・)
酒に手を伸ばそうとして、何かに引っかかった。(?)
の左手が、胸ぐらを掴んだままだった。(ったく、なんで、このまま寝れるかな?)
剥がそうと試みて、やめた。(だって、随分、気持ち良さそうに寝てるもんだから)
(・・・・・・ちょっと呑みにくいが、まぁ、いいか・・・・・・)
苦笑を浮かべて、檜佐木は無防備に眠るの頬を突いてやった。
「おぅ、恋次・・・片付いたのか?」
「・・・ある程度は。喧嘩はダメってことで、乱菊さんは向こうで一角さんと弓親さんを酔い潰そうと息巻いてて、京楽隊長は潰れた七緒さんを隊舎に送り届けてからまた来るそうです・・・・・・・・・って、さんも潰れてるんですね」
「ああ、ぐっすり。突っついても起きねぇ程に」
「・・・・・・だったら、修兵さん、さんを送って下さい。で、そのまま戻ってこなくて結構ですから」
「いや、送って合流するが・・・?」
「いえ!大丈夫ですからっ!!こっちは気にしないで下さい!!あぁ、ちなみに、今晩は用事があって七番隊は狛村隊長も射場さんも不在ですから、何も心配はいりませんから!!!」
「・・・意味が分かんねぇぞ、恋次?」
「いいから、修兵さんは、さん送ってあげて下さい!!後のことは、この俺に任せて!!!!!」
「?・・・とりあえず、を送ればいいんだな?」
「そうっス!!よろしくお願いします!!!」
ガバっと勢いよく頭を下げた恋次に、檜佐木はガリガリと頭を掻いて立ち上がった。
「ほら、帰るぞ」
「・・・う〜ん・・・・・・」
「立てるか・・・って無理だな。背負ってくか」
(グッジョブ、俺!!!これで、何も無い筈がないっ!!押し倒しちゃって下さい、さん!!!)
頭を下げたまま、恋次が内心でガッツポーズをしていたことをも、檜佐木も知る由はなかった。
決定的なのはこの手
アトガキ
Photo by 塵抹
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